夕日は朝日よりも鮮明だ

お気に入りのカウチでくつろぐ夕刻。
窓の外では高々と伸びた葦が風にざわめき、その隙間で虫たちが合唱している。
明かりをつけていない部屋の中は一分一秒ごとにオレンジ色に蝕まれ、カーテンの規則的なドレープやチーク材のテーブル、そこに二つ並んだ陶器のカップ、そして天井までもがじわりじわりと燃えてゆく。
オレンジ色の浸食は止まらない。
とうとうカウチの肘掛けが夕日に飲み込まれようかというその瞬間、背後で騒がしい足音が響いた。
振り向けば実にわかりやすく「構って構って」の空気を振り撒きながらババが駆け寄ってくるところで、多分チェーンソーの手入れを終えたばかりなのだろう、黄色いエプロンと両手が汚れていた。
隣を空けてやるとそのままの勢いで飛び込んでくるものだから、可哀相なスプリングがぎしぎしと軋んだ。
ババはピンク色をしたカウチの柔らかさにいま初めて気がついたとでも言うように身体を弾ませ、無邪気に笑う。
彼は可愛い。いつだってその可愛らしさで、私の一番柔らかい感情を引き出してくれるのだ。
思わずつられて笑うと、更に上機嫌になった彼は私の体に腕をまわして甘えるように寄り掛かり、「ウゥ」とうめきとも溜め息ともつかぬくぐもった声を漏らした。

「よしよし。いい子いい子」

ねだられるままに頭を撫でてやると、大きな体がまるで子犬みたいに擦り寄ってくる。
そういえば、彼のふわふわした髪の手触りは子犬に似ているかもしれない。
そんなことを考えながらぼんやりしているうち、いつの間にかババが眠ってしまっていることに気がついた。
私の肩口に顔を押し付けたまますやすや寝息を立てる彼は本当に可愛らしくて、微笑ましくて、なにより愛しくて、なんだか胸の奥がぎゅっとした。
出来ることなら今すぐにこの子を起こして繰り返しキスをして大好きだよって言いたかったけど、私はただじっとオレンジ色の炎が私とババに手を伸ばそうとするその一秒一秒を見つめていた。
ババの広い背中が、私の指先が、目が、燃える。

「……いつか死ぬならあなたと一緒がいい」

鈴虫がひときわ高く、りん、と鳴いた。

    拍手ありがとうございます!とても嬉しいです!

    小説のリクエストは100%お応えできるとは限りませんが、思いついた順に書かせていただいています。

    選択式ひとこと

    お名前

    メッセージ



    悪魔のいけにえババ
    うりをフォローする
    タイトルとURLをコピーしました