子守唄

朝からの不調がとうとう牙を剥いて襲い掛かってきて、レックスはいやいやながらもベッドに倒れ込んだ。
雨季が明けて急に暑くなったために軽い暑気あたりを起こしているのだろう。少し休めば回復すると思われた。
だが、いざ横になってみてもまるで落ち着かない。せっかくの休日を寝て過ごすことを体が拒否しているようだった。
自分の体をなだめるように、レックスは胃のあたりを撫でた。
そして、なだめるべき相手はもう一人いる——

「れ、レックス、レックスどうした? 平気か? 医者呼ぶか!?」

心配性の同居人。

「大袈裟ね。ちょっと疲れただけよ」

レックスはベッドの中から腕を伸ばしてスカーのマスクの鼻先をつついた。
だが床に膝をついてこちらを覗き込む異星人はまだ納得できない様子をしていて、声にもそのことが滲んでいる。

「レックスは休んでる時の方が疲れるんだな」

レックスは笑った。スカーは案外なんでもよく見ているのだ、いつもいつも。

「でもとにかく平気だから。心配しないで、ね?」

少し寝るからと言葉を結んで、レックスはシーツを胸の辺りまで引き上げた。ところが、それをさえぎる腕がひとつ。

「俺も一緒に寝たい」
「無理よ。狭いもの」

この異星人はたまにどうしようもなくわがままになる。そういうところも好ましいのだが、それは今が今でなければの話。
スカーはしばらく粘っていたが、結局はレックスがかかげた折衷案、『ベッドの端に頭を乗せるだけなら良し』を呑んだ。
頭を撫でられると彼はいくらか機嫌を持ち直した。お返しのつもりなのか、自分もレックスの褐色の肌に手をくっつける——黒い、やわらかい髪をかきあげて、そのなめらかな額に。

「スカーの手、冷たい」
「嫌か?」
「そうじゃなくて。いい気持ちよ。今日は本当に暑いもの」

ゴロゴロと喉を震わせる音が返ってくる。そこに宿る不満げなニュアンスを感じ取ってレックスは笑った。

「人間にとっては十分暑いの。ほら、スカーだって冬の間はなにかっていうと寒い寒いって弱音ばかりだったじゃない。お互い様よ」
「なあレックス」

スカーの分厚い手が額から二の腕に移る。やっぱりひんやりして気持ちがいいとレックスは思った。

「なに?」
「俺嬉しいかもしれない」
「私が弱ってるのが?」
「ずっと一緒にいられるのが」

また熱の上がりそうなことを、どうしてよりによって今。何も言えずにいるレックスを尻目にスカーは楽しそうに喉を鳴らし、彼女の胸に頬を擦り寄せたのだった。

    拍手ありがとうございます!とても嬉しいです!

    小説のリクエストは100%お応えできるとは限りませんが、思いついた順に書かせていただいています。

    選択式ひとこと

    お名前

    メッセージ



    スカー×レックスAVPスカーレックス
    うりをフォローする
    タイトルとURLをコピーしました