夏と秋のあいだ

元々は白もしくは淡いクリーム色だったのかもしれないが、今は煤けてくすんだ壁と埃を被って文字が読みづらくなった看板を背に、冷たい階段に腰掛けた私はぼんやりと目の前の道路を見つめていた。
二階建ての建物は下が銃器店、上がラジオスタジオとして使われていたが、銃器店はすでに今日の業務を終えている。
にわかに頭上が騒がしさを増し、ああ、そろそろかなと二階の扉を仰ぎ見ると同時に錆の浮いたそれが音をたてて開いた。
スタジオから出てきた赤いTシャツにジャケットとショートパンツ姿のストレッチ——皆にそう呼ばれているが、その愛称の由来は謎だ——は私に気がつくと「ハイ」と片手を上げた。
私も同じように「ハイ」と返事をする。
いつも感じる事だが、この精力的なDJは疲れとは縁がないらしい。彼女はいつだって生き生きと輝いていた。
ブーツの音を響かせて鉄階段を降りてきたストレッチは長い長い脚を組んで私の隣に座り、ひょい、とこちらを覗き込んだ。
力強いブルーの瞳がわずかに揺れる。心配をかけてしまったのだろうか。

「どうしたのよ。何か用なら中で待っててくれてもよかったのに」
「ううん、いいの。外の方が涼しくて気持ちいいから。っていうか別に用事っていうほどの用じゃなくてね」
「なに?」
「歩き疲れたから家まで送ってもらおうと思って」

と、脇に停まっているブルーグレーのジープを指す。
彼女はきょとんと目を丸くして、一瞬遅れて大きな口を開けてカラカラと笑った。

「なんだ、そういう事!」

それから、「仕方ないわね」と私の膝をたたいて立ち上がる。
私もストレッチの後を追ってジープに乗り込んだ。

「お礼にご飯作るよー、ホントありがと!」

もちろんビールもあるよ、と私が親指を立てると、運転席のストレッチもそれを真似た。

「よし、じゃあ今日は飲むわよ」
「今日はじゃなくていつもでしょ?」

彼女は白い歯を見せてまた笑った。

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    悪魔のいけにえストレッチ
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