Fuc**n Holiday

早く終わっちゃえばいいのに。
なんて、全世界からひんしゅくを買いそうな言葉がついつい頭をよぎる。だけどクリスマスも新年ももう要らないって気持ちは、間違いなく本心だった。

「だってさ、どこ行っても同じよーなクリスマスソングがエンドレスだし、どこ行ってもチカチカチカチカ……」

私は顔の横で両手を閉じたり開いたりしてバカバカしいイルミネーションの点滅を真似たが、すぐにその行為の方がよっぽどバカみたいだと気付いて、テーブルの向かい側のグウェンの顔を盗み見た。
よかった。笑ってるけど呆れてるわけじゃないみたい。

「まぁね。でも非日常的で面白いじゃない」
「なんかみんな急いで今年を終わらせようとしてるみたいで疲れるんだよね」
「私はホリデーシーズンって好きだけど」
「そっか」

あまりしつこく水を差すのも嫌だったので、それ以上の愚痴はグウェンが入れてくれたラム酒入りココアと一緒に飲み込んだ。
同じく彼女がさっき大ざっぱに切り分けてくれたいびつなシュトーレンをかじりながら視線をやったのは、まさしく非日常的という表現がぴったりの窓の外。
色とりどりの電飾でドレスアップした住宅地はいつもとまるで違う顔で、この季節になるとそこかしこに並ぶ原色まみれの悪趣味なケーキとそっくりだ。
全面マーブルチョコに覆われたみたいな外壁、サンタとトナカイの飾りが危なっかしく乗っかった屋根、庭には申し訳程度に飾られたイエスキリストの人形と、発光する動物のオブジェがたくさん。
どこを見ても色、色、色の洪水。街灯の明かりがかすんでしまうほどにあちこちキラキラ輝いていて、まるでどこかのテーマパークがそっくりそのまま引っ越してきたみたい。
特に向かいのお宅とその隣家はイルミネーションの輝きを競い合ってでもいるのか、主張しすぎて少し下品にも思える。

「あの家族って毎年ああなの?」

私と同じことを考えていたらしいグウェンが、ブロンドの髪をかきあげながら光の海にむかって顎をしゃくる。
まさかねと言いたげな口調だけど、残念ながらそのまさかだ。

「私が越してきたときからずーっとこうだよ。毎年どんどん飾り付けが増えてて……すごいのよ、毎日毎日家族総出であっちこっち飾り付けてくんだから」
「後始末を考えるだけで気が遠くなるわね。なんだか虚しくなりそうで私には無理」
「いやー、見てる方も虚しいよ、全部外すのに何時間かかってんのって感じで」

チカチカ、チカチカ、原色の点滅が窓ガラスに反射してうるさい。
眩しさだけの理由じゃなく、時刻的にもそろそろカーテンを閉めた方がいいのは私もグウェンもわかっていたが、せっかく暖まったソファーから立ち上がるのが億劫で、外から光の粒が侵入したいがままにさせている。
ガラス越しに聞こえてくる声はどれもとても嬉しそう。こんな一大イベントを楽しめないなんて、やっぱり私ってさみしい女なのかな。

「ほらリタ。その顔はどうしたのって。ほんとは何か心配事でもあるんじゃない?」

コンピュータの発言を繰り返すマディソン中尉とは違って、グウェンはいつも優しい言葉をくれる。
そんな彼女の顔から目をそらし、空っぽのマグカップをいじることしかできないのは、答えるべき正解がわからないから。逆にどう答えても間違いになってしまいそうな怖ささえある。

「急に変な子ね。昔はクリスマス好きだったじゃないの」
「別に。大人になったのかもね」

あいまいに答えながら、壁のフックにひっかけてある自分のバッグに目をやった。
あのバッグの内ポケットには、ここから遠く離れたニューオリンズ行きの飛行機のチケットが一枚だけ入っている。
——明日、急に大雪が降って欠航になればいいのに。
急激に温もりを失ったマグカップをまだ両手でもてあそびながら、そんな罰当たりなことを考えた。
実家が嫌いなわけじゃない。長い間顔を見てない親戚たちと夕食を囲むのだって、むしろ楽しみだ。
だけどね。

「リタ、ココアもっと飲まない?」
「うん、いる」
「じゃ、それ貸して」

グウェンがふたり分のマグカップを持って立ち上がる。ついでにカーテンを閉めたあと、キッチンに消えていく彼女の背中とブロンドの髪を視線で追いかけながら、心の中のもやもやがどんどん広がっていくのを感じずにいられなかった。
毎年と同じ冬でしょって自分に言い聞かせる。
長い冬季休暇をもらって、一人暮らしのこの小さなぼろ家を置き去りに、年明けまで家族に甘えてゆっくり過ごす。
朝から晩までソファーに寝そべって自堕落にテレビなんか眺めてみたり、あるいは学生時代の旧友たちを訪ねたり、妹と一緒に新年のパーティーに出かけたりもするかもしれない。
仕事のことなんて一切忘れて、きっといい気分転換になるだろう。

やがてグウェンがマグカップを満たして戻ってきたとき、彼女が選んだ席は私の向かいではなく隣だった。
リラックスした様子で長い脚を組み、まだ熱いココアをけろりとしながら口に運ぶ彼女の吐息をすぐそばで聞いていると、心の中に穏やかさがすこしだけ戻る。
グウェンは確か年末に『ギャラクシー・クエスト』のイベント出演があるんだっけ。今年は会場が遠いから大変なのよって数日前にぼやいてた。
私の皿に薄切りのパンが追加される。

「シュトーレンは1日に一切れずつ食べるものなんだけど」
「知ってる。でも私一人じゃ残りを全部食べきるなんて無理だもの」

この笑顔。それからふざけて肩を軽くぶつけてくるしぐさにも、しばらくは会えないのだと改めて気付いた。
ああ、やっぱり明日大雪になればいいのに。

「グウェン?」
「なに?」

ホリデイが疎ましいのはあなたのせいよ。

    拍手ありがとうございます!とても嬉しいです!

    小説のリクエストは100%お応えできるとは限りませんが、思いついた順に書かせていただいています。

    選択式ひとこと

    お名前

    メッセージ



    ギャラクシー・クエストグウェン
    うりをフォローする
    タイトルとURLをコピーしました