雷鳴

早朝から絶え間なく降り続けている雨は5分ほど前からいよいよ勢いを増したばかりでなく、招かれざる客まで引き連れてきたらしい。
カーテンの隙間が白く光ったかと思うと、耳をつんざくような重低音があたり一帯に鳴り渡った。
リビングの照明が一瞬ちらついたので、ニーナは反射的に天井を見上げた。
その目に不安や危惧の色はなく、彼女の気がかりといえば、日々溜まっていく洗濯物をどうしようかという程度のものだった。
なにせここはテキサス州の東部だ。大雨も洪水もハリケーンもめずらしいことではない。

ただ、彼女の落ち着きはらった態度も、さきほどからずっと部屋中を歩き回っているもう一人にはなんの影響も与えないらしい。
皮のマスクを被ったババ・ソーヤーは、窓の外で稲妻が閃くたびにその巨体に似合わない甲高い悲鳴を発した。

「ババちゃん、平気だよ。こっちおいでよ」

ニーナが男に向かって手招きをする。
悪天候はまだしばらく続きそうだし、その間ずっと同じ場所を右往左往されたら床板が割れてしまいそうだ。
ぎしぎしと床を踏み鳴らす足音も慌ただしく、黄色いエプロン姿の大男がこちらに駆け寄ってくる。
言語にならない唸り声には涙が混じっているように思えたが、確かめることはできなかった。なぜならニーナがババの手をとる直前に、先ほどよりもさらに大きな轟音が響いたからだ。このすぐ近くに落ちたに違いない。
その迫力ときたら今まで平然としていたニーナでさえ肩を跳ね上げてしまうほどだったが、すでに怯えきっていたババを脅かすには十分すぎるほど十分だった。
小動物のごとく飛び上がったババはきゃあきゃあわめきながら一目散にテーブルの下に潜り込むと、ニーナの足元で身を縮こまらせて、彼女のスカートをぎゅうっと握りしめた。
震えながらしがみついてくる大男はさながら幼い子供で、彼の頭を撫でながらニーナは苦笑しかできない。

「今のは怖かったねー。私もびっくりした」
「ウー……」

マスクの奥で、すっかり怯えきった黒い瞳がニーナを見上げる。

「よしよし」

強ばった指先や手の甲、腕に肩、背中など手の届く範囲をあちこち撫でてやると少し落ち着いたようだったが、それでもニーナの膝に頬を押し当てたババにテーブルの下から出るつもりは毛頭無いようだった。

「ババちゃん、大丈夫だってば」

言い終わる前に、空が再び轟いた。

「……いや、多分」

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