乙女とロボット

パパーン! なんて清々しいファンファーレが鳴り渡ったのは、バカみたいに暑い真夏の昼のこと。
振り向けばいましがた洗車フルコースを終えたばかりのバンブルビーが両腕を広げて仁王立ち。渾身のどや顔を決めていた。

「うん、キレイになったねぇ。まあ私が熱中症起こしそうになりながら頑張ったおかげだけど」

が、黄色い頭は違う違うと否定の意を示す。自慢したいのはそこではないらしい。
壊れた発声機能の代わりをつとめるラジオがカリカリと音を立てた。

「≪ではここで問題です!≫≪昨日と違う……≫≪お答えください!≫」
「え、違うとこ?」

問い返せば遥か天空の黄色い頭がうなずき、期待に満ちた視線を寄越す。バンブルビーは人間の子供がするように、つま先でくるりと一回転してみせた。

「うーん」

いきなりそんなこと聞かれても。そりゃね、色が真っ赤に塗り変わってるとかなら一目瞭然、一発正解百点満点なんだけどね。
黄色いボディのバンブルビーは今日も歪みなくバンブルビーで、何も違わないと言わざるを得ない。
地面にしゃがんで私の真正面まで顔を寄せて、きゅうんと子犬の鼻声みたいな音をさせる彼は内心を隠そうともしない。
『もっと近くで見て!』とばかりににじり寄ってくるから私は逆に一歩後ずさった。視界が全部彼で埋まって、今にも鼻先がくっつきそう。

顔? 顔がいつもと違うって?……丸っこい頭に額のエンブレム、ヒマワリの色、二つのレンズの目。全部いつも通りに見えるけど。
首をかしげる私を、眩しいくらいに青い瞳が熱心に見つめてくる。まばたきのたびに聞こえるかすかな音が、写真を撮られてるみたいで気恥ずかしい。
だから思わず、その鼻っ面にキスをひとつ。

「《うわぉ!》《やったね、ボス》」が、急に思い出したようにぶんぶん首を振って、「《君はずるいひとだ》」若い男の声で私をいさめた。
「あ、ばれた? ごまかそうとしたの」

正解するまで離してくれないつもりらしいけど、それじゃ日が暮れちゃうんじゃないかな。
だって私は昔から鈍感な方だと言われてきたし、それは自分でも認めるところだし。

「やっぱりわかんないよー」
「≪オォゥ……≫」

なんか腹の立つ声と共に、いかにもアメリカンなオーバーリアクションで肩をすくめるバンブルビー。よくわからないが急にジャズを弔いたくなった。いや死んでないけど。

「降参するから答え教えてよ」

勝ち誇ったように反り返る胸の前に指を一本突きだして、バンブルビーはラジオ音声をつぎはぎして喋る。
驚くなかれ、なんとストライプ模様の位置と太さが変わっている、とのこと。

「……細っか! 細かすぎ! わかんないよそんなの!」

正直なところ、私は彼らを色と言動の雰囲気だけで判別している節がある。青いからオプティマスかー、とか、銀色でちょこまかしてるからジャズだな、とか。そんな程度。
そんな私に模様がどうこうの細かいモデルチェンジに気づけと言う方が無茶である。ぷりぷりしてるバンブルビーには悪いけど。

「じゃあ例えばよ? ビーは私の髪型が変わったとかネイルの色が違うとか新しい靴買ったとか、言われなくてもわかる?」

バンブルビーのどや顔再び。腰に両手を当てて、彼は大きくうなずいた。
髪は一ヶ月前に四センチだけ切った、今日のパーカーは買ったばかりのもの、スカートは五日前に履いていたのと同じ、爪の色と指輪の色はいつも揃えてるけど今日はなにも塗ってない……そんなことをつぎはぎの音声で並べ立ててみせた。
それはもう得意気に、一切のよどみさえなく。

「……ビー、若干気持ち悪い」

ガーン! と大袈裟な効果音が一閃、その場に崩れ落ちるバンブルビー。鮮やかな青色から、滝のごとしウォッシャー液の涙が噴き出した。

「ぜ、絶対に認めないんだからね」

うら若き乙女である私よりも金属生命体のほうがカワイイなんて!

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