同じ明日が訪れるとして

「あのね?」

次の言葉の準備を整えるリリの声はいつもとまるで変わらず、仮にこれが電話越しであったなら、彼女がこれ以上ないくらい酔っぱらっているなんてレックスは思いもよらなかっただろう。

「私ね、」

ただ、今の二人の間に電話線などはなく。

「レックスのことが好き」

それどころか数センチの隙間さえなかった。

「……ええ、わかった。でもとりあえず離してもらえる?」
「えー! やだぁー!」
「参ったわね……」

冷たい床に横たわり、話の通じない酔っぱらいに痛いくらいに抱き締められながら、レックスはこれからどうしたものかと途方に暮れていた。
自分の胸に顔をうずめて離れないこの旧友が酒に弱いのを忘れていたのは大失態だった。おかげで大変な夜になってしまった——今さら悔いても遅いのだが。
ともかくスカーが出払っているのは幸運だった。おかげで無駄な混乱を招かずに済むのだから。
フローリングに面した肩が痛みはじめてレックスがもぞもぞと体を動かしたとき、背中に回されたリリの両手にぐっと力がこもった。
ごくり、と喉が鳴る音がこちらまで聞こえてくる。

「好き、レックスが好き。友達としてじゃなくって」
「そうね、知ってる。そうじゃないかって感じてた。ありがとう」

期待を持たせず、かといって冷淡にもなりすぎない声でレックスは答えた。相手の髪を優しく撫でる手は、幼子をなだめる母親のそれに近い。

「……“でも”って続くんでしょ?」

くぐもった問いかけに、レックスの豊かな唇から笑い声がこぼれる。10年も一緒にいたら何もかもお見通しなのはお互い様というわけだ。

「嬉しいのは嘘じゃないけど。でもね、リリ。私は友達としてのあなたを失いたくないの。10年来の親友をなくすなんて辛すぎると思わない?」
「うん……私もレックスがいない人生なんてやだ」

そうは言ったものの簡単には割りきれないのだろう、リリはレックスの胸にますます強く顔を押し当てて涙声で唸る。
かと思うと、次の瞬間勢いよく起き上がった。
それがあまりに唐突だったので、レックスは床に寝そべったまま、しばしぽかんとして友人を見上げた。
うつむいて黙り込むリリはなかなか言葉を発しようとしない。だがまだ言いたいことがあるに違いなかった。
垂れ下がる髪の間に覗く鼻先は赤く、身を起こしたレックスはリリがいつ泣き出してもいいように、心の準備を整えた。
すると予想通り、リリの両目からはらはらと涙がこぼれ落ちはじめる。

「すっごい悔しい! 私の方がずっとずっとレックスのこと好きだったのにさ、いきなり訳わかんない宇宙人が出てきてかっさらわれるとか!」
「リリ、」レックスの手が酔っぱらいの肩をよしよしと撫でる。「しーっ……落ち着いて。泣かれると困っちゃうわ」
「そんなの……私のがもっと困ってるもん」
「そうね、そうよね」

ぐずぐずと鼻を鳴らすリリはまるで小さな子供のようだ。たった一つしか歳が違わないなんて信じられないくらいにまっすぐで、不安定で、とりとめもなくて、脆い。

「でもレックスが幸せならそれでいい……悔しいけど嬉しいよ。なんか変な感じだけど」

そう言うと、リリは右手で顎先から目元までを一気にぬぐった。そのせいで頬は余計に濡れてしまったように見える。あるいはそれは、無理して笑った際に一粒だけ転がり落ちた涙のせいかもしれないが。

「ほんとに……変なかん、じ……」

レックスの反応は敏速だった。言うだけ言って気が抜けたのか急に眠りに落ちたリリが前のめりに傾いだ瞬間に、さっと腕を伸ばしてその体を受け止めた。
もう完全に無意識の世界に旅立っているリリは揺さぶってもなんの反応も示さない。
リリらしいと言えばらしいが、あまりのマイペースさに笑えるやら呆れるやらで、レックスは苦笑を浮かべ「世話の焼ける子」と一人呟いた。

    拍手ありがとうございます!とても嬉しいです!

    小説のリクエストは100%お応えできるとは限りませんが、思いついた順に書かせていただいています。

    選択式ひとこと

    お名前

    メッセージ



    AVPレックス
    うりをフォローする
    タイトルとURLをコピーしました