狡猾な彼女は尻尾を出さない

教訓。一時間ドラマなんて途中から観るもんじゃない。
真面目に訊きたいんだけどね、前半30分になにが起きたら高校のバスケ部が巨大タコと闘う展開になるの? テレビの中で繰り広げられる他人事な活劇から隣のジヴァに視線を移すと、彼女も同じことを考えているらしく眉間にシワが寄っている。

「ニュースチャンネルにしようか?」
「やめとくよ。余計疲れそうだから」
「だよね。私も」

確かに今は緊迫する国際状況に触れるような気分じゃない。しかたなく名も知らぬ男女の痴話喧嘩を眺めながらカロリーを摂取する任務に戻れば、ジヴァも自分の食事をつつくのを再開した。
その脚を、相変わらず私の膝にどっかりと乗せたまま。

「行儀悪いんだから」

紺色をしたヨガパンツのすねを、フォークの柄でぺしりと叩く。
広々と使えるところが気に入って大枚はたいたソファーなのに、今はジヴァが大部分を占領しているせいで窮屈極まりなかった。

「やーねー、すっかりアメリカ人みたいになって」
「そう?」

ジヴァの視線がテレビから引き剥がされた。テイクアウトの中華にはおなじみのプラスチック製フォークの先端でいびつな形のピーマンを突き刺したまま、不思議そうにこちらを見つめてくる。

「ピーマン嫌い?」
「そうじゃなくて。考え事してたんだ、一瞬だけ」
「ふーん……あ、最初にタコを食べようとしたやつってどういう精神状態だったんだろうとか?」

野菜を咀嚼しながらジヴァが笑って首を振る。でも確かにそれも気になると妙に真剣な顔つきになって付け足した。
実は、私にはタコの話よりもっと気になることがひとつある。
それをジヴァに話すべきかどうか悩んで空っぽになった紙容器を潰してゴミ袋に突っ込みながら、窓の外に目を向ける。
通りを挟んだ真向かいに、ジヴァが一人で暮らすアパートが見える。ここより一階分低い位置にあるベランダは殺風景で、主人の帰りを待つ草花はひとつも見当たらない。
けどだからと言って、こんな近い距離を帰りたがらない理由ってある? だって外は見事な星空だし、銃弾が飛び交ってるわけでもないのに。

「玄関で寝るなら泊まってもいいよ」
「ん? 気なんか使わなくていいのに。あんたのうるさい寝言にももう慣れたから」
「いやいやジヴァのいびきが死ぬほどうるさいって話でね? ほんとに自分のいい方にいい方に解釈するよね君は」

ジヴァがゴミ箱を探してキョロキョロする。そこへビニール袋を差し出すと、彼女は紙皿とフォークとナプキンをまとめて突っ込んだ。

「絶対ルネの方がうるさい」
「それはない。今度あれをやられたら君の顔に濡れタオルをかけたい衝動にあらがう自信がないもん、私」
「自信なら私にもあるよ。その前に撃つ自信がね」

ふざけて銃のシルエットを形づくる、その指が私の眉間を狙う。よりによってヘッドショットなんだと噴き出したらジヴァがふざけてウインクを寄越したので、もっと笑ってしまった。

「さっきから思ってたんだけどさ」
「何を?」
「あんたの方がよっぽどアメリカ人みたい」

考え込んだ顔して急に何を言い出すかと思ったら。

「ジヴァ」
「うん」
「私は産まれた時からアメリカ人なんだ、きっと衝撃的だろうけど」

ジヴァの瞳が私を射る。私の脚を押さえつける重さが少しだけ増した。

まだ真面目な顔。そして、わざとらしく「そうだっけ?」とおどける声はあまりに不真面目で、もはや銃ではない右手にぽんと肩を叩かれた。

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