鷹匠さんと私

日光浴をさせていたセキセイインコの上機嫌なさえずりが、掃除中の私の手を止めた。
庭先の木の梢に止まる雀と会話をしているようだ。今日は五月の初旬にしては暑く、私は薄着の服の袖をまくり上げながら鳥かごに近づいた。

「なに話してるの、ん?」

インコはこちらに向き直って、私には理解できない言葉で語りかけてくる。
その声がふいに止んだのと、雀がいっせいに飛び去ったのは同時だった。
急に訪れた静寂にぎくりとする私の耳に、一瞬遅れて新たな鳴き声が滑り込んでくる。窓枠に大きな翼を持つ影が舞い降りた。

「ああ、あなた……」

窓を開けてやると、その“鳥”は悠々と室内に飛び込んできた。もちろん目指す先は私ではなく——

「あ、鷹匠さん」

いつの間にかすぐ背後に迫っていた異形の男である。
半分が機械で半分は生身の鳥型偵察機が彼の肩にぴたりと寄り添う。この偵察機は彼の相棒だ。
鷹匠という呼び名はもちろんここから思いついた。安直だけど、まあ本人も嫌がってはないみたいだし。

「きれいになったでしょ?」

鷹匠が鳥かごを見ていることに気がついて、私は満足感と少しの緊張を覚えた。
今日の朝、他でもない彼に叱られて久しぶりの大掃除を決行したのだ(ずぼらな人間より異星人の方がインコにとってよほどいい飼い主に違いない)。
インコに指先をつつかせている鷹匠が頷く。どうやら合格点が出たらしい。
その彼の視線が、ふと私の手に止まった。

「ああ、これ?」

私には退屈するとその辺のものをもてあそぶ癖がある。今も夕食のメニューを考えながら、朝刊に挟まっていたチラシで紙飛行機を折り上げたところだった。

「私結構作るのうまいんだよ。見てて」

席を立って壁際まで下がり、カラフルな飛行機を投じる。飛行機は滑るようにまっすぐ飛んで、窓に当たって落ちた。
広い場所ならもっと飛んだはずだと言うと、鷹匠はいかにも感心した様子で足元にうずくまるそれを拾い上げる。が、力を入れすぎた手の中で薄い紙はぐしゃりと潰れた。
新しいのを持たせても今度は力を抜きすぎて落っことす有様。つい笑いそうになって、咳ばらいでごまかした。

「えっと、そうじゃなくて……ここ、この下のとこを持って」

手を添えて教えてあげたら、やっと要領を掴んだらしい鷹匠はしげしげと紙飛行機を眺めた。不思議と私まで楽しくなってしまう。
「外で飛ばしてみる?」そう尋ねて、返事も聞かずに太い腕を引っ張った。

「いいじゃない、だってほら、せっかく——」

こんなにいい天気なんだから!

タイトルとURLをコピーしました