空を仰ぐと、レースみたいな薄い雲がゆっくりとたなびいている、そんな午後。
散歩中の犬やパンくずをつつく鳥の鳴き声が穏やかに満ちる公園の隅、私とキャリーは古ぼけたベンチで肩を並べたままかれこれ二十分以上も言葉を交わしていなかった。
だからって、別に喧嘩をしている訳じゃない。
二十分前、キャリーから「話があるの」と持ち掛けられたのだ。
彼女の様子からそれが本当に大切な内容らしいと察しがついたので(なにせその一言を発するだけでも、可哀相なくらい体を強張らせていたほどだ)私は彼女が決心するのをいつまででも待つつもりだった。
正直、こうして二人で居られるのなら今日中に話を聞けなくたって構わないとすら思う。
ちらりと横を見ると、キャリーの華奢な両手が落ち着きなくカーディガンの袖を引っ張っていた。俯いた頬には金色の長い髪がかかり、彼女の表情を覆い隠している。
その時、どこかで犬が吠えて、それを合図にキャリーがほんのわずかに顔を上げた。
「あ、あの……あのね」
白い喉がためらうように震える。
「うん?」
「エミリー」と再び話し出す声はほとんど泣きそうだった。「お願い。笑わないでね。それと……私を嫌いにならないで」
嫌いになる? 私が?
思わず桃色の唇を見つめた。この子は何を言っているんだろう。
「そんなの頼まれたって無理だよ」
そう答えてもキャリーは力なく頭を振るだけで、私はいよいよ不安になる。
「好きなの」
矢継ぎ早に発せられた言葉。その意味を私が呑み込むより先に、キャリーが両手で顔を覆い隠した。
「エミリーの事が、好きみた、い……」
彼女の語尾は小さくなって消えた。その声を完全に閉じ込めてしまおうとするかのように、キャリーはますます強く、手のひらを顔に押し付ける。
「——じゃあ両思いだね」
私が笑うと、私の可愛いひとは弾かれたように顔を上げた。
まず美しい瞳が見開かれ、次いでそばかすの浮いた頬が見る見るうちに赤く染まる。
「えっ、え、嘘、それって」
「嘘じゃないよ! キャリー可愛いなーってずっと思ってて……。っていうか、死ぬほど思い詰めた顔してるから何言われるのかと思ったじゃない! すっごく怖かったのに」
まだあわあわしているキャリーを見ていたら胸のあたりがぎゅうっとして喉を押し潰すから、「……じゃあ、つ、付き合おっか」と言った声はさっきの彼女に負けないくらい細くて掠れていてたけれど、キャリーはすぐにこくこくと頷いてくれた。
「……エミリー、耳が真っ赤」
「うん。キャリーもだけどね!」
私たちは白紙の二十分を取り戻すかのように笑って、笑って、笑った。