結局ね、そういうこと。

ベッドの上に並んだ大小の膨らみが二つ。
毎朝おなじみのアラーム音が朝を告げると、小さい方がもぞもぞと動き始めた。布団の隙間からにょっきり伸びてきた手が携帯を探り当てて、沈黙させる。

「あー……」

あくびとも呻きともつかない間の抜けた声を起動音に、エマはのろのろと上半身を持ち上げた。まだ半ば目を閉じたまま、サイドテーブルからペットボトルを取り上げるとぬるくなった水を口に含んだ。
その間に携帯のスヌーズ機能が今一度アラームを鳴らしはじめたが、隣で布団の塊と化したままのダークマンは動じない。
そこでエマが何度か肩を叩いてやると、彼はようやく身じろぎを始めた。うう、と低い声をひとつ発して右腕と頭のてっぺんだけが布団の端から姿を現したが、その他の部位は依然ぬくぬくとした安全地帯に包まれたままである。

「おはよ。先起きるよ」

起き上がったエマがベッドのふちから足を降ろそうとすると、大きな繭から左腕が突き出てきて、エマの腰に素早くぐるりと巻き付いた。

「エマ……行くな」

その声は、起き抜けの気だるさと顔に巻いた包帯のせいでくぐもっている。

「離してよー、ご飯作るんだから」

えいっという掛け声と共に布団がはだけられ、ダークマンの裸の上半身が外気にさらされる。胸を痛々しく飾るまだら模様の火傷跡、だけどもう二人とも気にも止めない。
寒さかそれとも自分を見捨てるつもりの恋人の薄情さにか、恨めしげなダークマンの瞳がエマを見上げる。たくましい腕は未だエマの腰を抱いたまま、なんとか彼女をベッドに引きずり戻そうとして離れず、それはまるでぐずる子供のようだった。

「起きてすぐによく動けるな……」

信じられないとばかりに呻く声は普段の数段低く、いかにもまだ眠たそうだ。

「まぁね、私は若いからね」
「関係あるのか、それって」
「あるある。ほらぁ、お腹空いたでしょ? 私も空いたからはーなーしーてー」
「もう少しだけ」
「だめ。時間なくなっちゃう」

まだぐずぐず言っている男の脳天にチョップを見舞い、ようやく解放されたエマがひょいとベッドを飛び降りる。
椅子に引っかけてあった上着を羽織って戸口に向かいかけたとき、「エマ」と名前を呼ばれて振り返った。
ベッドに肘をついて上半身だけ起こした姿勢のダークマンが、まっすぐこちらを見ていた。青い目がそっと、優しげに細くなる。

「愛してる」

一瞬面食らって時を止めたエマの顔に、すぐに満開の笑顔が咲いた。

「うん、私も!」

    拍手ありがとうございます!とても嬉しいです!

    小説のリクエストは100%お応えできるとは限りませんが、思いついた順に書かせていただいています。

    選択式ひとこと

    お名前

    メッセージ



    ダークマンペイトン・ウェストレイク
    うりをフォローする
    タイトルとURLをコピーしました