きっと最後にのこるもの

同居人のイザベルが帰宅したのはつい十分前、真夜中の1時近くなってのことだった。
それもどういうわけだか、アデール・ルソーの肩にぐったりともたれかかっている。玄関先で二人を出迎えたレックスは驚きと困惑で「どういうこと?」と尋ねるのが精一杯だった。

「この子酔ってるんだかないんだかわかりづらいもんだから、つい、ほら。飲ませすぎたみたい」

青い瞳を翳らせた傭兵はレックスに向けてそう弁解した。
なるほど、それは至極シンプルな事情だ。
泥酔したイザベルを支える役目を交代したとき、アデールの両頬も赤く染まっていることにレックスは気付いた。彼女の家はどこだっただろう。ここからさほど距離はなかったと思うが。
心配になって一晩泊まっていくことを勧めたが、アデールはこの申し出をあっさりと断った。

「私のことは気にしないで。でも心配してもらえて嬉しいわ」

あっけらかんとした口調を装ってはいるが、自分の首の後ろを撫でるしぐさに気まずい内心を隠しきれていないアデールに、レックスはすこしおかしい気持ちになった。もっと淡白な性格かと思っていたが意外と繊細なところもあるようだ。
最後にイザベルに謝っておいてくれと言い置くと、傭兵は寒空の下を早足で帰っていった。

「……まったく。あなたも結構無茶するのね」

小柄なイザベルを寝室まで運ぶのは、そう難しいことではなかった。
イスラエル人スナイパーはベッドの上におとなしく横たわったまま身じろぎさえせず、その無防備な姿は年齢相応の普通の女性にしか見えなかった。
とてもじゃないが、国防軍の兵だとは信じられない。

レックスは相手の黒髪をひと無でした。後ろで束ねた三つ編みをほどいてやり、ほつれた前髪をそっとどかして耳にかける。
指が耳に触れると「んっ」と小さな声が漏れ聞こえたものの、それきりまた静かになった。
ところが、服を着替えさせようと裾に手をかけたときだった。眠っていたはずのイザベルが初めてはっきりとした拒絶の意を示したのだ。
眉間に不機嫌なシワを刻んだまま焦点の定まらない目がかろうじてレックスの顔を睨んでいる。赤く染まった頬に迫力はなく、まるでふてくされる子供のようだった。

「襲ったりしないわよ?」

手首を掴まれたままのレックスが冗談混じりに笑ってみせると、まどろむ瞳はしばしこちらを見つめていたが、やがて何を言うでもなく再び閉じられた。

「そうね。もう眠たいわよね。でももうちょっとだけがんばれる?」

再び聞こえた小さな声はただの呻きで肯定の証ではなかったかもしれないが、ともかく今度は身体を抱き起こしても抵抗されなかった。

「ちょっと寒くなるけど我慢して……」

カシミヤのセーターを脱がせるのには多少手間がかかった。
いかにも暖かそうな厚手の防寒インナーの裾をちょっと持ち上げてみると、下にもう1枚同じようなインナーが顔を出す。
寒がりのイザベルらしい厚着に思わず笑みをこぼして、レックスはそっと相手の背中を手探った。下着のホックらしきものが見当たらないのでスポーツブラを付けているようだ。
ならこのままパジャマを着せても大丈夫そうだと納得したものの、暖かい背中が名残惜しくて、しばらくそのまま手のひらを押し付けていた。

「私だけに見せてほしかったわ」

眉尻の下がった寝顔を胸に抱きしめて、そう呟いたのはほとんど無意識。
少なくともアデールはイザベルがこんなやわらかな表情もできることを知っていて、それも自分より先に知っていて……その事実にみぞおちのあたりがざわついて仕方なかった。
そして、混濁した重苦しいそれを濾過する方法をレックスはまだ知らない。

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