Hello,November!

11月1日。
忌々しい日だと、街灯のない夜道を歩くマイケル・マイヤーズは思った。
なぜ10月31日の次は11月1日なんだろう? なぜ10月31日はあっという間にどこかへ消えてしまうんだろう?
彼は時計を持っていなかったが、見上げた空がのっぺりとした紺碧色をたたえていることから、すでに深夜0時をまわっているだろうと見当をつけた。
だから今日はもう、11月1日に違いなかった。
ハロウィンは、彼の日は終わったのだ。

マイケルは11月が嫌いだったが、なぜか毎年この血に塗れた祭りの幕引きとともに、体がふっと楽になるような感覚をおぼえる。
同時に自分がただの抜け殻になってしまったように感じて、どうしようもなく悲しくなってしまうのも例年通りだ。
この泣きたいような気持ちを癒してくれる誰かがいるとすれば、それは一人しか思いつかなかった。
相変わらず空には赤っぽい月がぼんやりと浮かんでいる。
10月31日は終わった。ハロウィンにはしゃぎ、お菓子をねだり歩いていた亡霊はもういない。
魔女もピエロもカボチャのランタンも引き上げた閑散とした夜道を、ブギーマンはひたすら歩き続けた。

その家の裏口はいつものように開いていた。
ドアノブをひねって中に入る。彼の手にはわずかに返り血が付着していたが、すでに乾いていたので何の痕跡も残さなかった。
広いリビングはしんと冷たくてまるで人の気配がしない。
唯一生きて音をたてている壁掛け時計を見上げてみたが、暗くて文字盤を読むことはできなかった。
マイケルは暗闇の中を何にもぶつかることなく思い通りに進んでいく。
目指す先は血を洗い流してくれるキッチンだったが、その途中で彼の目はよく磨かれたチーク材のテーブルに吸い寄せられた。
“彼女”が一目惚れして購入したというどっしりとしたテーブル……その中心にスープカップと、パンと、そして白い紙が置いてある。
マイケルは文庫本ほどの大きさの紙をつまみ上げて、文字が書いてあるようだと知ると目的地を月明かりが射し込む窓際に変更した。

——おかえりなさい。スープあっためて食べてね!

見慣れた几帳面な字の横にはデフォルメされた猫のイラストが添えてあって、くりくりした黒い瞳がマイケルを見つめている。
ニーナ。可愛いニーナ。
彼は僅かに身をよじった。左胸のずっとずっと奥の方がくすぐったくてたまらず、そうせずにはいられなかったのだ。
ハロウィンの殺人鬼はすでに笑うという感情もその行為のやり方も忘れていたが、いつもニーナがそうするのを真似られたらいいのにと思った。
彼女のように笑えたら、くすぶり続けるこのくすぐったさもいくらか癒えるかもしれないのに。
またしても泣きたいような気持ちが膨らんでくる。
テーブルに戻りスープカップの蓋を開けると、カボチャとミルクの匂いが漂った。
大切な、大切なニーナ……。
マイケル・マイヤーズが11月1日を許せる理由があるとすれば、それは愛しい恋人が待っていてくれるからに他ならない。

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