はじまりとおわり

あなたは見ている。
眼球の無い顔で、全身を包み込むぬめぬめとした安らぎの寝台を。折り曲げた自分の小さな足を。尾を。
あなたは見ている。
外の世界であなたを待つわたしを。

あなたは聞いている。
鋭い聴覚器官で、寝台が発する絶え間無い鼓動を。自らの脈動を。どこからか聞こえる苦悶の呻きを。
あなたは聞いている。
外の世界で待つわたしの声を。

あなたは感じている。
その幼い身体のすべてで、蠢動する壁の熱さを。うごめき、のたうち、引き攣ってあなたを揺さぶる寝台を。
あなたは感じている。
そろそろ外に出る時間だ、と。

肉を突き破って現れたあなたを、わたしは歓喜の声で迎えた。涙さえ流した。
あなたの寝台であった人間は今まさに息絶えてぴくりとも動かなくなったというのに、あなたは細い腕を振り回して賢明に生きようとしている。死から生まれたあなたは確かに生を宿していた。
あなたには大切な使命があるので、わたしは感傷にひたる間もなくあなたを取り上げて仕事にかからねばならなかった。
まずは血と肉片にまみれた身体を清めることから。
ぬるま湯であなたの体を撫でながら、わたしは考えていた。不満げにこちらを見上げつつも逃げだそうとはしないあなたはすでに総てを理解していらっしゃるのですね、と。
ええ、そうです。わたしはあなたの味方。今いる唯一の味方なのです。

三日が経ち、あなたはあっという間に成熟した大人の女性へと成長を遂げた。
もはや私の腕はおろか、どんな生き物だってあなたを抱き締めることは叶わないでしょう。
だけど落胆などしていないでしょう? あなたは愛される側から愛する側に移っただけのこと。あなたの愛を焦がれているものがいることに、あなたはもう気づいているはず。
ええ、そうです、女王陛下。あなたの中に、それはいるのです。あなたの愛を必要としているものが。
さあさあ、お部屋にご案内して、その御体を固定して差し上げましょう。
そこであなたは次の命を産み、愛し、導くのです。それこそがあなたに課せられた最大の使命であり、女王にのみ許された神秘だから。
そしてその時、わたしにも大切な使命が課せられる——

わたしは見ている。
自らの意志とは無関係に波打ち、引き攣る己の皮膚を。
わたしは見ている。
麗しいあなたのかんばせを。

わたしは聞いている。
ほかならぬ自分自身の悲鳴を。
わたしは聞いている。
あなたがわたしに語りかける、その愛しい声を。

わたしは感じている。
肉を食い破り、組織を引きちぎり、骨を砕く者の存在を。
わたしは感じている。
とうとう訪れたわたしの死と、わたしの死がもたらす輝かしい生を——

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