なるようにしかならないので

日付もとっくに変わる頃。仕事でくたくたになった体を引きずって家に帰ってきたら、庭に変な生き物がいた。
辺りの暗闇に溶け込むような深い黒色をしたそれは、明らかに猫とか犬の類ではない。そもそも陸地に居ていいフォルムじゃなくない?
本当に驚くと人は悲鳴どころか声さえも失うらしく、喉に綿でも詰まったかのような感覚のなか、たっぷり十数秒——体感では何日にも思えた——そいつと向き合っていた。
は、と浅い息を吐き出すと、焼き付いていた思考が再び動きはじめる。
走っては駄目だ。私が一歩後退すると、二メートルの巨体も一歩こちらに踏み出した。
月明かりの下に躍り出たそいつの姿は悪夢そのものだった。陸地だろうと深海だろうとこんな生き物が存在するわけない。

頭は前後に細長く、顔には耳も目も鼻も見当たらない。やたら大きな口には銀色に光る鋭い歯。
頬が無いせいで、口元がにんまり笑っているように見えるのが不気味さを増長している。
とにかくこんな生き物を見たのは初めてだ。
いや、冷静に観察してる場合じゃ——その時、謎の生き物が、くるくる鳴いた。大きな身体を地面に伏せて、またくるくる。
こちらを見上げる姿は、例えるなら、……甘えているような。

「えっ?」

この怪物と遭遇してからの第一声がこれである。
我ながら間抜けにもほどがあるが、それに対して、きゅーん、なんて答えるこいつもこいつだと思う。

「……何もしないならその辺で寝ててもいいけど」

何を言っているんだ。嬉しげに尻尾を振る怪物を見ながら、私はよほど疲れ果てているのか、それともただの大馬鹿なのかもしれないなと思った。

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