かたかた、かたん。
絶え間なく吹きつける風に押されて窓が鳴く。
まるで一足先に冬がやってきたような気温に、今夜は街中の人たちが参ってしまっていた。もちろん、私も。
こんな日は、できるだけいい場所でじっとしているのがいちばんいいわ。
暖炉の頑張りのおかげでようやく暖まりはじめた部屋の特等席で私はあくびを漏らした。「は、う」なんて間の抜けた声は黄色いエプロンに吸い込まれて消えた。
私の特等席はお気に入りのソファーの上、そしてババ・ソーヤーの腕の中だ。彼は体温が高くて、こんな日にくっついているとすごく気持ちがいい。
おおきな体がごそごそと動いて、ババが目を覚ましたらしいとわかった。
腕をきつく回しすぎたかと思って力をゆるめたけど、逆に彼のほうが私を胸に押し付けてきた。
「ババちゃん、起きたの?」
返ってきたのはうう、とかあー、なんて間延びした声で、さっきの私に負けず劣らず間抜けな響きに思わず笑ってしまった。この子ったら寝ぼけてるみたい。
「ごめんね、まだ寝てていいよ」
パチパチと薪がはぜる音がする。私は暖炉の中で左右にゆらめきながら燃えるオレンジ色を想い描いた。そして、炎に照らされて明るいチョコレート色になったババの癖毛を想像した。
私を包み込む腕にいっそうの力を加えて、ババがきゅうっと背を丸める。そして、おおきな身震いがあとに続く。
「寒い?」と聞くとマスクの顔はふるふると否定を示したけれど、それと同時に厚い毛布を肩まで引き上げたので、私の視界は真っ黒に塗り潰されて、黄色いエプロンも淡いピンク色のシャツも太い腕も、すべてが見えなくなってしまった。
窓を叩いていた風の音も、炎のささやき声も、もう聞こえない。
なんだか変な感じ。まるで世界から隔離されてしまったような。
すこし不安になって、彼の存在を確かめるように広い背中を撫でさする。指先に何か細長いものが触れた。あ、エプロンの紐だ。
なんとなくもてあそんでいるうちにゆるんでほどけたそれを手に巻き付けてぎゅっと握ると、不思議と安心できた。
「……おやすみ」
あたたかい真っ暗闇のなかで、私はもう一度あくびをした。