Let’s Fight!

その日、友人であるレックス・ウッズの自宅を訪ねたアオイは、そこで繰り広げられる奇妙な戦いに遭遇した。
快い日差しが降り注ぐ裏庭で、ケルティックとチョッパーが睨み合っていたのである。
そしてその会話の内容はと言えば……

「アイツハ俺ノダ!」
「ナ、ナンダヨウ、勝手ニ決メルナヨ!」

はて、全く意味がわからないとアオイは首を傾げた。そこで、同じく遠巻きに二人を見守っているレックスに訊いてみる。

「あれは?」
「グリッドの取り合いみたいよ。青春ねえ」

自宅の庭で大柄な異星人二体が火花を散らしているというのに、くすくすと笑うレックスにはまるで危機感がない。
スカーという頼りになる“夫”がそばにいる故の余裕か、それとも感覚が麻痺しているんじゃないかと思ったが、自分も人のことは言えないなと考え直して口をつぐんだ。
そして、そんなアオイの胸に額を擦り寄せているのが、この騒ぎの元凶とも呼べるグリッドである。
レックスによると「ついさっきまではおろおろしてた」らしい彼女は、今はアオイの首や腕や背中にまとわりつくのに熱心で、まるで男二人の存在など忘れたように振る舞っている。
行動だけ見れば人懐っこい犬のよう……そんなグリッドの細長い頭を撫でてやりながらアオイは笑う。

「ぐりちゃんモテモテだねぇ。三角関係?」

それからまだ言い合っている——そろそろつかみ合いに発展しそうな気配だ——若者二名へと視線を戻し、どちらがグリッドに好適だろうかと考えた。
短絡的だが腕っ節の強いケルティックとグリッドのバランスは申し分なく、グリッドが遠慮なくじゃれあえる貴重な相手である。
対するチョッパーは多少力強さに欠けるものの、ケルティックとはまた別の方向性でいい遊び友達になっている様子だ。
二人とも、まあまあうまくやっていけるのではないかとアオイは思った。それだけに、どちらを応援するか決めかねる。

「どうなるかしらね」

アオイの内心を読み取ったかのように、レックスが呟いた。
隣のスカーはすでにこの状況に飽きているらしく、先程から彼女の髪を引っ張ってちょっかいをかけている。

「うーん……。っていうかさ、本人に選んでもらえばいいと思うんだよねー」
「まあ、それもそうだけど」しつこいスカーを制しながらレックスが応じる。
「でしょ? ぐりちゃんはどっちが好きなの?」

突然水を向けられて、グリッドは少しばかりまごついた。それでも「んっとね」とばかりに斜め上を仰ぎ、考えるような動作をする。
そして、嬉しげに喉を鳴らす黒いトカゲは、その薄っぺらい唇をアオイの唇に押し当てたのだ。

——わたしはアオイが好き!

その瞬間、場の空気の流れが変わったのを、アオイは確かに感じ取った。

「え、いや、あの……」

なんかごめんなさい、じりじり後退するアオイに向かって、ケルティックとチョッパーの悲痛な叫びが爆発したのは言うまでもない。

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