虹色絵の具

「もしもあなたが死んで——」

その肉体が朽ち果てるときがきたら、私はどうやってあなたを残そうか。
記憶にとどめ続けるには難しい、彼を形作る大小のありとあらゆる要素をこの世につなぎ止めておくために私にはなにができるだろうか。
べつにどちらの死期が近づいてきたというわけでもないのに、ここ最近の私はそんなことばかりを考えて暮らしている。

もちろん徹頭徹尾、本気も本気。私は真剣。
なのにスカウトの返事ときたらロマンも何もまるで皆無で、私を見つめる視線には呆れさえ滲ませている。

「ニーナ、いつも言ってる通り、今のところ死ぬ予定は……」

今は片付けに専念しないかと言って、彼は散らかった部屋を手で示した。
確かに私から言い出したクローゼットの片付けは一時間経った今でも全く進んでいないし、むしろ始める前より悪化した気さえする。

「けど飽きちゃったんだもん」
「お前はまた……最後まで何かをやり通したことはないのか?」
「失礼な! あるよ、多分きっとね」

私が何かを始めて、だけどすぐにどうでもよくなって、いつの間にかスカウトの方が真剣に取り組んでるってパターンに陥った回数の多さを考えるとあまり胸を張っても言えないけど。

「わかった、あとでちゃんとやるからとりあえず一旦休まない?」

本当は掃除なんかより、スカウトとゆっくり過ごす方がずっと好き。
だけどスカウトは“何もしないでゆっくり過ごす”ことが極端にヘタクソだから、私は彼にできるだけ長く構ってもらえるようにいつもくだらない思いつきを探してる。
私、本当はそんなに気まぐれでもないんだよってね。そんな事実を彼が知ったら……やっぱりびっくりするのかな。
そんなことを考えながら、ごつごつしたスカウトの肌に頬を寄せた。
あまり暖かすぎず、冷たくもない肌の温度はまるで彼自信の生きざまみたいで面白い。ほっといてほしいときはほっといてくれて、でも一緒にいてよって言うと必ず首を縦に振ってくれる優しいひと。

「……なんか今すっごいちゅーしたい」
「また唐突な……」
「でもそろそろ慣れてきたんじゃない?」
「確かに」

私が伸ばした手をスカウトがからめとって引き寄せる。座っていても埋まらない身長差のせいで腰を大きく曲げながら、やっとのことで私にキスをしてくれた。
閉じた牙を私の額に押し当てるだけのちょっとごまかしたようなキスだって、私には特別なキス。

「腰痛めそうだね」
「そう思うなら膝立ちにでもなってもらえると助かった」
「その手があったか!」

スカウトは苦笑にも似た顫動音を奏で、それからまるでそれをごまかすように、ちょうど手元に転がっていた薄っぺらい箱を手に取る。
彼が手を動かすのにあわせて中のものがカタカタ揺れる音が聞こえた。

「これは……?」
「わー懐かしい。昔、絵のコンクールで入賞した時にもらった絵の具だ」

シュリンクすら破いていない新品の箱の中にはほんのささやかな誇りが14本の虹となって行儀よく並んでいる。
使ってしまうのがもったいなくてもう5、6年は仕舞ってあるだろうか。

「絵を描くとは知らなかった」
「昔親に習わされてたから……。最近はあんまりだけどね。でも描くのは今も好き」
「使わず仕舞っておくのはもったいないと思うが」
「でも、これはダメ。今は使わない」

思い出深い14色の絵の具。あなたが死んだら遺灰と絵の具を混ぜて、あなたを描くって今決めたから。
そう告げると、スカウトは呆れたように私を見つめ返した。

「……どう考えたってお前の方が先に死ぬだろう」

彼は私に絵の具の箱を持たせ、そして言葉を続ける。

「だから、今のうちに絵の描き方を教えてくれ」

2015-03-04T12:00:00+00:00

    拍手ありがとうございます!とても嬉しいです!

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