博士と助手と事件

最優先で進めていた研究が政治的駆け引きの濁流に呑まれ、一時停止を余儀なくされると、私たち研究員はたちまち退屈という名の暗礁に放りだされた。
こんな時、私たちは己の無力を噛み締める。
目の前でなすすべもなく仕事を奪われたというのに、許されるのは心の中で、あるいは直接口に出して不平不満を呟くことだけだなんて。
まるでおもちゃを取り上げられた子供だ。
ただし、私の直属の上司であるゲディマン博士だけがまだ意欲の炎を燃え盛らせていて、彼は持て余す時間を使って新しい計画を練りはじめたようだった。
白髪混じりの生え際を指先でなぞりつつ、真剣な眼差しをした博士がなかば独り言のように呟く。

「なあ、きみ、考えたんだが」
「どうせロクなことじゃないのでしょうね」
「ゼノモーフを小型化してみたらどうだろうか」
「それをどうするんですか」
「どうするもなにも、単純に愛らしくなると思わないか?」
「天才なんですか? さっそく上部に掛け合いましょう」
「……ステラ、お願い。あなたがそっち側に行ってしまうと私一人にいろんな負担がかかるの。いろんな負担が」
「いやいや、カーリンさん、これは一大プロジェクトですよ。はやく予算案組んでもらわないと」
「間違いなく1セントたりとも出してもらえないでしょうね」


「……と、言うことがあってですね、どう思われます?」

円筒状をした、モダンな塔を思わせる部屋の中。
私はいま、200年前に生きて、そして死んだエレン・リプリー中尉のクローンである『リプリー8号』の健康データの記録を終えたところだ。
透明の強化プラスチックでできた天井からは柔らかな明かりが降りそそぎ、室内をぼんやりと照らしている。それでもこの部屋は薄暗い。
ここを“監禁塔”と呼んで揶揄する者は多いが、確かに私にもそう思えた。だけどリプリーはこの場所がお気に入りのようで、あてがわれた部屋に居ないときは大抵ここでまどろむようにして過ごしている。
美しいクローンは、冷ややかな視線を私に浴びせかけながら言った。

「どうも何も、あなたたちって本当にどうしようもない生き物だと呆れるわ」
「そうですか?」
「あまりあの男に影響を受けるとロクなことがないわよ」

あの男、とは考えるまでもなくゲディマン博士のことだろう。以前、助手仲間のカーリンにも同じことを言われたけど、どの辺が似てるっていうんだろう。ほんと心外。

「受けてませんよ、影響なんて」

今しがた、リプリーの簡易健康診断の結果を打ち込んだばかりのポータブル機器をたたんで白衣のポケットに入れて、何気なく壁際に視線をやった。
この部屋から外は見えない。
もっとも仮に窓があったとしても、巡回船のオリガ号から見える景色なんて代わり映えしないし、慣れすぎてしまった宇宙空間にはなんの感慨も湧かないだろうけど。

「リプリーさんは地球が恋しくなったりはしませんか?」

未知の星、地球。私は未だ肉眼におさめることすら叶っていないが、エレン・リプリーはかつてはそこで暮らしていたらしい。青い星と呼ばれ愛された、それはそれは美しい惑星だと聞いている。
いや、美しい惑星“だった”が正しい。地球がゴミ溜めや廃材置き場と呼ばれるようになってから、ずいぶん長い年月が経っているのだから。
そのことについてはリプリーも聞き及んでいるはずで、私は彼女がショックを受けているのではないかとずっと気にかかっていた。
だけどリプリーは唇の端にあざけるような笑みを浮かべただけで、こう言った。

「私は地球には行った事もないわ。それに生まれはこの船よ、知らなかった?」

おばかさんね、そんな風に言いたげだった。

「あなたはどうなの?」

リプリーの手のひらが私の頬を撫でる。親が子を慈しむようなしぐさなのに、それでいてそこに愛はない。

「こんな狭い檻に閉じ込められて死ぬまで働く自分を想像するのはみじめにならない? どこか別の場所に……自由に恋い焦がれたりは?」

キスでもするかのように、リプリーの整った顔が近づいてくる。頬と頬が触れ合う。
彼女の肌はつめたくて、体温のにおいがしなかった。ゼノモーフと同じ、濃密な、冷たい闇のにおいだけがする。結局のところ、このひとは私とは違う生き物なのだ。

「り、リプリーさんっ……」

彼女の手から逃れようと、私は身をよじった。
リプリーのことが恐ろしくなったからではない。作業中、彼女の命令で部屋の隅に追いやられていたニューボーンがすっくと立ち上がって、こちらに向かってくるのが視界の端に映ったからだ。
それも愛する“ママ”を奪われてなるものかと怒り心頭の表情で。さすがにこれは命の危険を感じる。

「待って待って、違う! 不可抗力!」
「ダメよ。この子には手を出さないでって言ったでしょう? そうよ、いらっしゃい。いい子ね」

もしもニューボーンが猫だったなら、今頃ゴロゴロ音のなだれが起きているに違いない。
そのくらい気持ち良さそうな表情を浮かべながら、巨大な新生児はリプリーに擦り寄って、もっと撫でてとせがんでいる。こういうのを見てると、普通に可愛いなって思えるのにな……。
何はともあれ、またニューボーンの逆鱗に触れる前に退散した方がよさそうだ。

「失礼します」

ふたりに背を向けて、ドアの開閉スイッチを押す。そこで、ふと思い出して振り向いた。

「ちなみに先ほどの質問にお答えするとしたら、“ノー”です。私、この船も仕事も気に入ってるんですよ。ここを檻だと思った事はないし、閉じ込められてると思った事もありません。
 ここ以外のどこにも興味がないんです。確かにさみしいことかもしれないけど……でもある意味幸せなのかもしれませんね」


それから数時間後。ゲディマン博士とカーリンと、そろそろ昼食にしようかと話していたとき、異変は突如として起きた。
大音声の甲高いサイレンが、幾度にもわたって鳴り渡りはじめたのだ。
ファーザーの合成音声が船の一部フロアが破損したこと、原因不明の出火が起きたことを知らせる。
途端に騒がしさを増す船内。警戒と避難を促すアナウンスが繰り返され、その間を縫うようにして、廊下を駈ける兵士達の足音と怒声が聞こえてくる。

「また?」

というのはもちろん、先日のはた迷惑な“防災訓練”を思い出してのこと。
カーリンが怯えた目でこちらを見ている。私の頭の中を読んだかのように、彼女はゆっくりと首を振った。

「違うと思うわ」


リプリーは部屋にも、塔にも居なかった。
だがむろん、そんなことはすでに他の誰かが確認済みで、手の空いている者が彼女の行方を懸命に探しているところだ。
一部の人間はこの騒ぎをはなから彼女の仕業と決めつけているようだが、どうも釈然としない。
そんな私は、現在クイーンの様子を確かめるために長い廊下を走っている最中である。博士とカーリンはニューウォーリアーの区域に向かっているはずだ。
原因の分からないパニックの中、ゼノモーフの様子を確認しようと思い立ったのは私たち三人だけのようだったから。

息切らせてたどり着いたクイーンの部屋には、(少なくとも表から見える範囲には)異常はなかった。
ドアは隙間なくぴったり閉ざされているし、ロック状態を示すランプもきちんと点灯している。

「女王陛下、ご無事ですか? 私です。お聞き及びかと存じますが緊急事態で……お邪魔してもよろしいですか?」

すると、中から尻尾で床を叩く音がした。彼女なりの“お入りなさい”の合図だ。
シュッという音を立ててドアが開く。クイーンの姿が見えた。ああ、よかった! 無事だ!
ところが喜びもつかの間——私の体は急にバランス感覚を失った。ぐいと後ろに引き寄せられる感覚がしたかと思うと息が苦しくなり、訳もわからず咳き込んだ。誰かが白衣の襟首を掴んでいる。

「ちょっ、と——」
「探す手間が省けたわ」

聞き覚えのある声は冷酷なまでに落ち着き払っていて、氷のような温度で背筋を滑り降りた。

「あなたはここで大人しくしてなさい」

声がそう告げるのと、背中を強く押されたのは同時だった。室内に転がり込んだ私は無様にも床に両手をつく。
体勢を立て直すよりも早く、外から部屋をロックする音が耳を打った。
一体どういうつもり? あわてて白衣のポケットを探る。くそ、しまった。鍵を取られた。

「リプリーさん、リプリーさんっ!」

外から返事はなく、他の誰かが駆けつけてくれることもなく、ファーザーが発する警告音だけが繰り返される。私はこの四角い部屋の中に完全に閉じ込められてしまったらしい。

「困り……ましたね?」

背後の女王陛下は不機嫌に唸って答えた。それが私に対してなのか、それともこの状況すべてに対してなのかはわからないけど。
クイーンの部屋に外部との通信手段は一切無く、私はすっかり途方に暮れていた。
そもそも、私か博士かが不定期にデータを取りにくる以外は誰も寄り付かない部屋だ、助けが来る見込みは薄い。
一応、天井の隅に監視カメラは据え付けられているが、しかしこの状況で誰が暢気に監視モニターをチェックしているというのか。
今回のパニックの原因は未だ不明だが、もしも船自体に何かが起きていて、このままだと爆発する……とかだとしたら、私たち、相当まずいんじゃないだろうか。
まあ、それでクイーンと一緒に死ねるなら本望ではあるけれど。

「はぁー……」

ぼこぼこした壁に背中を預けて座り込む。
クイーンが過ごしやすいようにと、ニューウォーリアーたちが苦心して作り上げた有機的な巣の壁は、ほんのりと暖かくて心が落ち着いた。
クイーンは私の頭上高くでなにやら思案顔を浮かべている。あるいは、テレパシー能力を用いて子供達とコンタクトを取っているのかもしれない。
いずれにしても邪魔はしない方がよさそうだと、視線を前に戻したときだった——
入り口のドアが、大きく揺れた。
まったく事態を飲み込めない私の目の前で、またしても、ずしんという震動。

「きゃあっ!?」

他のどこよりも頑丈で分厚い素材で出来ているドア。それが軋む……というか揺れるだなんて、今この瞬間までは想像すらしなかった。
強烈な打撃音が更に続く。ドアのへこみが広がる。誰、と尋ねるような馬鹿な真似はしなかった。どう考えてもあの向こうにいるのは人間ではないから。
もしも、もしもニューボーンだとしたら。
私一人ならなんとか隙をついて逃げだすチャンスもあるかもしれない。だけどクイーンは? 不可能だ、絶対に。殺されてしまう。
三歩後ずさり、すぐ背後にクイーンが立っていることに気がついた。私とは違って、威厳も冷静さも欠片すら失っていない。
彼女にはあの扉の向こうにたたずむ“何か”の正体が視えているのだろうか。

「女王陛下、危険ですのでどうかお部屋の隅に——」

轟音と共に、とうとうドアが内側向いてひしゃげた。
クイーンの長い尾が私を引き寄せる。自分の腹の下に私をかくまうそのさまは、まるで母性愛に満ちた母猫のよう。
だが、それを喜んだり驚いたりしているひまはない。私の目と意識は闖入者に釘付けになっていた。

——ざっくりと表せば、人型。
しかしそのどこも人間には似ておらず、毒々しい柄の赤茶色っぽい皮膚はむしろ爬虫類か何かを思わせる。
がっしりとした体には頑丈そうな装甲、顔には赤銅色のマスク。その無機質なデザインは、廊下でまたたく非常灯の赤色を浴びてますます気味が悪い。
彼(恐らく、雄だろう)はクイーンを前にして喜びを隠しきれない様子だった。望んでいたものをやっと見つけた、そんな風に。
だけどすぐには飛びかかってこない。どうして? クイーンの腹にかくまわれる私に気がついたから。
理由はまったくわからないが、私の存在が彼の闘志をくじいたのだ。顔も見えない、見知らぬ種族相手だけど、それははっきりと感じ取れる。
フェイスマスク越しの視線が私の頭からつま先までを何度も往復する。彼が何を思うのかは知る由もないが、どうやら一種の戸惑い、あるいは混乱を感じているらしかった。

これはチャンスだろうか? いや、どのみち唯一の出入り口は奴がふさいでいるから逃げられない。
今にも飛びかからんばかりの勢いで、クイーンが唸る。ここでこの二人が暴れはじめたら……まずいような気がする。
そのとき、ふいにグルルという聞き慣れない音がして、私は思わずクイーンの脚にしがみついてしまった。
音の出所は人型爬虫類の喉。少しばかり小首をかしげた格好で、彼は初めて言葉を発した。それも、かなり予想外の言葉を。

「キャンディ、タベル?」
「甘いもの苦手だから」

キャンディ? なんで? 正直かなり面食らった。けどもっと驚いたのは、律儀にも返事をしてしまった自分自身に対して。
でもなんとなく、そうしなきゃいけないような気がしたんだもの。
ほんの数秒間、私たちはバカみたいに黙りこくったまま見つめ合っていた。
こいつは何なんだろうっていう不思議な気持ちはまだ渦巻いてたけど、混乱とか、恐怖なんかはいつの間にかどこかへすっ飛んでしまったみたいだった。
ほんとバカみたい。多分クイーンも同じ事を思ったんだろう、彼女は「邪魔だからどいてなさい」とばかりに、長い尻尾を使って私を乱暴に後ろへ押しやろうとした。
クイーンの動きと、宇宙人のすぐ後ろで何かがちらりと動いたことに私が気づいたのはほぼ同時だった。直後、ガゴッという重たい音がしたかと思うと、人型爬虫類は床に崩れ落ちた。


そこに立っていたのは、予想通りの姿と予想外の姿。
トレーニングルームから拝借してきたのであろうバーベルを手に持ち、「生きてたのね、運のいいこと」と皮肉っぽい笑みを浮かべるエレン・リプリーが前者で、そして後者は……ぜいぜいと息を切らせたゲディマン博士である。
彼はリプリーの脇をすり抜けて部屋の中に入ってくると、私の肩を掴んで「怪我はないか!?」と揺さぶった。
その剣幕と、意外にもほどがある言葉に虚を突かれて私が何も答えられずにいると、博士はますます焦ったようになる。

「おい、きみ——」
「え、あ、ああ。大丈夫です、平気です! 問題ありません!」

あれ、これって心配されてる? ゼノモーフ以外の生き物は軒並み絶滅しても構わないと豪語してる博士に?
なんだか信じられなくて、思わず顔を凝視してしまった。何か悪いものにでも寄生されたのだろうか。
だけどどうやら杞憂だったらしい。
やっぱり博士は博士以外の何者でもなくて、次の瞬間には私のことなどすっかり忘れたように、フラフラとクイーンに近寄っていったのだから。

「ああ……! わたしのクイーン……よくぞ無事で……!」
「引きちぎられても知りませんよ博士」
「あなたたち。感動の再会を邪魔して悪いんだけど、これはどうするの?」

床で伸びきっている宇宙人の髪を掴んで持ち上げると、リプリーは無表情に私たちを見回した。
あんな重たいもので後頭部を思い切り殴りつけられて、気絶しているとはいえまだ生きてるんだからこの宇宙人も相当なものだ。

「めんどくさい事になる前にリリースでお願いします」
「それがいい」

てっきり反対するかと思ったゲディマン博士も迷いなく同調する。つくづく彼はゼノモーフにしか興味がない。
さすがに生身で放り出すのはかわいそうだったので、相談の末、一人用の脱出ポッドを一艇拝借することにした。

「もう来たらだめですからね」

窓越しに見守る中、卵形のポッドは宇宙のどこか遠くへと消えて行った。どこから来たのか知らないけど、元の場所に帰れたらいいね。

「しかしクイーンの部屋に逃げ込むとはな」

戻りの道すがら、ゲディマン博士が褒めているのか呆れているのかそれとも羨んでいるのか判然としない口調で私に言う。

「違いますよ……あれはリプリーさんが無理矢理」
「うろうろされちゃ邪魔だもの」

悪びれる様子もなく答えるリプリーは、“何か”が船内に侵入したのをいち早く察知して、後を追っていたのだそうだ。
訓練された兵士でさえてんやわんやしていたのに、まったくたくましい人だ……。

「ニューボーンは?」
「あの子なら部屋で大人しくしてるわ。てっきりあの子が狙いだとばかり思ってたんだけど」
「私もです。でも女王陛下にお怪我がなくてよかった」

クイーンはせっかくゆっくりしていた所を邪魔されて立腹の様子だったが、それ以外に異常はなく、今はまた部屋で休んでいる。
博士は心配だから様子見に残りたいとゴネたが、クイーンの胃に穴が開くと困るのでもちろん却下しておいた。


さて、事の顛末をどう説明しようか、というのが、私たちにのしかかる一番重要な課題だった。
なにせ宇宙人が乗り込んでくるなんて、そうそうある事じゃない。貴重な生命体を勝手に逃がしたなんて上層部に知れたらどうなるやら……。
だから、とりあえず勝手に逃げ出したという方向で口裏を合わせることにした(監視カメラが音声を拾わないタイプだったのは幸いだった)。
それでも結局は「どうしてまんまと逃がしたんだ!」などときっちりしっかり叱責されてしまったのだが。
そう言うなら自分でなんとかしてみやがれって話じゃない?
さんざん皮肉と唾を飛ばしてようやく満足を得たのか、ペレズ将軍は大袈裟なため息ひとつのあとで私たちを睨み上げると言った。

「……まあ、君らが騒ぎを解決したことに変わりはないしな、おかげで部下たちも無傷で済んだ。何か要望があれば言うといい」

むろん立場をわきまえた上でな——ペレズ将軍の目は無言のうちにそう付け足していた。
不必要なまでに広々とした椅子でふんぞり返るこの男の顔面にフェイスハガーを貼り付けられたら、さぞ気分がいいだろうな。
私はもう従順そうなフリをするのも億劫になって、すべてを博士に丸投げすることにした。どちらにしたって、下っ端の下っ端のそのまた下っ端程度の私に発言権などあるまいが。
一歩後ろに下がる私を見て、博士が心得たように頷いた。


オリガ号の修復作業は、この数時間の間にあらかた終わっていた。
ファーザーはすっかり黙り込んで、警告灯も回っておらず、廊下はすっかりいつもの静けさを取り戻していた。あんなに忙しく走り回っていた兵士や技師の姿はどこにもない。
まるですべてが悪い夢かなにかであったかのように、船は日常に戻りつつあった。

「いやー、叱られましたねー」
「うむ」

そんなこんなで、私たちはやっと将軍様のお説教から解放された。解放されたと言うよりは、部屋から追い出されたとする方が正しいだろうか。
ゼノモーフの小型化プロジェクトはものの0.5秒で却下された。それも、「愛玩ペットを作ってるんじゃないんだぞ!」という怒鳴り声のおまけ付きで。

「っていうか私たち、今まで何を作ってたんでしょうね?」
「まったくだな。てっきり愛玩ペットを作っているものだと……」
「ですよね。ところで私、博士が助けに来てくれるなんて意外でしたよ。てっきりさっさと逃げたのかと思ってました」

すると博士が急に立ち止まったので、私もつられて立ち止まった。こちらを見下ろす博士の瞳に「心外だ」と言いたげな色が宿る。

「当然だろう? 一応大切な助手だからな、きみは」
「……博士……!とか感動的な方向に持っていきたいのは山々なんですけど、すごく気持ち悪いです。そのドヤ顔今すぐやめて下さい張り倒しますよ」
「きみは3秒ごとに上下関係を忘れる病気にでもかかっているのか?」
「いえ。これが上司だとは認めたくないだけです」
「これとはなんだこれとは! いいか、そういう態度を取るのなら次はないと思いたまえ」
「まあまあ。ところでアレは何だったんでしょうね?」
「知るものか」

計画を却下されて(もしくは私のせいか?)ご機嫌斜めの博士はつかつかと足を速めると、愛するゼノモーフの待つ研究室へと向かった。
そうね、確かにどうでもいいことかもしれない。だけどどうしても考えてしまう。
あれは何という生き物で、一体どこから来たんだろうと。どこか別の場所。広い広い宇宙の、ここじゃない場所……
リプリーの言葉を思い出す。“自由に恋い焦がれたりは?”
——あるいは、今なら私の答えは少し違うのかもしれない。

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