さあさあ早く愛していると言って頂戴

いつもより少し遅い時間。
疲れた体を引きずって我が家に帰ると、どこぞの夢魔が我が物顔でソファーを占拠していたので、あやうくコンビニの袋を取り落としそうになった。

「お前は、そこで、何を、している」

赤と緑の縞模様のセーターを纏ったフレデリカ・クルーガーは華奢な体をソファーに横たえて、尊大な態度で黒いブーツの脚を肘掛けにあずけている。
その彼女が顔をしかめた。

「は?」
「『は?』じゃない、なんでうちにいるの。プリンやるから帰れよ」

とりあえず座りたかったので「ちょっとどいて」と言うと素直に体をずらしてはくれたものの、今度は正面のテーブルの上に脚を乗せられる。

「ここはあたしの家」

右手に着けた鉄の鈎爪を白い照明にきらめかせながらフレディが言い切った。
当然でしょ、とでも言いたげな表情に少し腹が立つ。何を言っているんだこの子は。

「違うし……あっ、え、なにこれ夢? 私寝てる?」
「やっと気づいたの?」
「びっくりした……何をいきなり同棲宣言してんのかと……っていうかプリン食うな」
「くれるって言ったじゃない」

平然と言ってのけるフレディの右手に違和感を覚えて視線を移すと、なんといつもの鈎爪の先端がスプーンに変わっていた。
横着な……というか何でもありなんだな、この子。

「まあ今さらだけど」
「何が」
「いや、別に。ちょっと頂戴」

細い手首ごと引き寄せたスプーンを口に入れるととろりと甘くて、疲れた脳が癒される。
それにしても、それこそ今さらな話だが夢の中でもきちんと味覚が機能してるって変な感じだと思う。
彼女の悪夢は精巧だ。感触も匂いも温もりも……なにもかもがあまりにリアルすぎて、目を覚ましたらすべてが消えてしまうなんて信じられないくらい。
そしてもちろん、その瞬間に夢魔自身も霧のように消え失せる。
ちらりと盗み見ると、フレデリカは大人しくたまご色のカスタードを口に運んでいた。皮肉屋で饒舌な彼女のことだ、文句の一つでも言うかと思ったんだけど。
あっという間にプラスチックのカップを空にした彼女がぽつりと言った。

「……あんたがしたいならそうしてやってもいい」
「へ? 何が?」

さきほどフレディが発したのに比べるといくらか間の抜けた声で聞き返す。

「同棲」

ふいっと顔を逸らすフレデリカの耳は心なしか赤い。
半透明のカップをゴミ箱に放りながらぼんやりと考えた。うん、それも楽しいかもしれない。
……あなたが私の前からいなくならないと言うのなら。

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    ♀フレディエルム街の悪夢
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