じゃれて寄り添ってまた眠る

ソファーの上でいつの間にかうたた寝をしていたらしい私をひとりぼっちのリビングに引き戻したのは、どこかの部屋で窓が開く気配と、それに続く足音だった。
壁の時計は深夜一時を指している。こんな時間に物音?
悪い想像ばかりが膨らむ中、リビングの扉を押し開けて細い人影が滑り込んできた。
「ハァイ」と手を振るのは見慣れた赤と緑のセーター。それは間違いなくフレデリカ・クルーガーの姿だった。

「フレディ!」

ずっと待ち望んでいた姿が目の前にあるのだ。ばかみたいに声が弾んでしまうのも、泣きそうになってしまうのも仕方ないでしょう?
私の恋人はお芝居がかった優雅な手つきで焦げ茶色の帽子を脱ぐと、それを胸にあてて、「あら」と首を傾げた。

「そんなに寂しかったの? ん?」

ソファーに座った私の身体をまたぐようにして、フレディが座面に膝をつく。自分より小さい彼女を見上げるなんて、なんだか新鮮だ。

「だって、一ヶ月ぶりだもん」
「そうだった?」

膝の上にポスンと座ってくる彼女に、どうしてもっと早く来てくれなかったのと詰め寄ろうとしたけれど、その言葉は全部ぜんぶ赤い唇に飲み込まれてしまった。
ようやく私とフレディの気が済んだ頃、乱れた息を整えるのもそこそこに尋ねた。

「今日はボイラー室じゃないの?」

私たちのデートといえば、大体はあそこだった。
すると彼女は私の頬に鼻先を擦り寄せながら、「あんたが寝たら連れていってあげる」なんて言うの。

「……ん?」
「遊んでやってたガキに連れてこられたのよ。……あのビッチ!」

あれ、あれっ? じゃあここって夢の中じゃなくて本当の本当に現実なの? 彼女はここまでてくてく歩いて来たってこと?
なんか可愛いなって思って私が笑うと、夢魔は「随分ご機嫌じゃない」と顔をしかめた。

「そうかな。ねえ、それで逃げてきたの?」
「まさか。しっかり可愛がってやった」

フレディが苛立ったように鼻を鳴らす。こちらに突き出される鉄の爪には、赤い染みがついていた。
なるほど、今日の子には家中に罠を仕掛けたり、フレデリカにガソリンをひっかけたりする知恵や機転はなかった訳ね。

「ねえ、ニーナ?」

妙に熱っぽい声が耳元で囁いた。彼女がこういう声を出すとき、次に起きる事は決まっている。
ほらね、いつもと同じように私のパジャマの衿元に鈎爪を引っかけて、とびきり甘い声で囁く。

「あんたも可愛がってほしい?」

私はその手をそっと絡めとる。このちいさな手に、今まで何枚の服をダメにされたか。

「切ったら怒るからね」
「怖ぁい」

フレディはくつくつ笑い、人に愛されることを知っている野良猫のように私に擦り寄った。
気ままな猫は都合のいい時にだけゴロゴロと喉を鳴らし、身をくねらせて餌をねだるのだ。

「そういうところも好きだけど」
「何が」

野良猫が軽く首を傾げる。首筋を撫でてくる手がくすぐったい。

「でも時々さみしい」

二度と帰って来ないんじゃないかって、考えてしまうから。
フレディは心を読もうとするかのようにじいっと私を見つめて、それからここが夢の世界ではないことを思い出したのか、結局はまた私の唇に噛み付いた。
差し込まれる舌はあつくて、あつくて、愛おしい。
きっと私たち、このままベッドにも行かずに一晩中じゃれあうんだと思う。そしていつの間にか抱き合ったまま眠りに落ちて、ソファーの上で朝を迎えるんだ。
その時もまだ彼女は隣にいて、私の頬をつついて起こしてくれるだろうか。

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    ♀フレディエルム街の悪夢
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