私だけの宇宙

誰かに恋をしたら、世界は百八十度変わるんだと思っていた。
だけど地球は丸いままで、四季は欠かさず巡り、私は毎日お腹が空いたり野菜ジュースがおいしかったり洗濯物を畳むのがめんどくさかったり、ときどき頭が痛かったりする。
実際、変化と言えば、いってきますとただいまを言う相手が出来たのと、秘密が一つ増えたのと、毎日がちょっと楽しくなったことくらい。
そう、たとえ恋に落ちた相手が命のない殺人鬼であったとしても、世界は知らんぷりで進むのだ。


明日の雨を予感させる月が浮かぶ十二月の夜。予報通りの厳しい冷え込みに包まれて、空も風も街灯の明かりさえも凍ってしまったようだった。

「さ、寒い、ね」

私の声もその例に漏れず、ぎこちなく凍てついている。
ところが隣を歩くジェイソンだけは例外のようで、ホッケーマスクの顔は「よくわからない」というふうに首を傾げた。

「寒くないの? ふうん……」

だとしたらちょっとうらやましい。コートのポケットに突っ込んでいてもなお指の間接がジンジン痛んで、手袋を忘れてきたことを悔やんだ。

「うー、やっぱ寒い」

無意識に呟いて、丸めた手の平に息を吹きかける。ふと気づいて顔を上げると、ジェイソンがこちらをじっと見つめていた。
彼はなにか考えているふうだったが、やがて大きな両手をおずおずと持ち上げて、まるい器のかたちを作ると、その内側に向かって白い息を閉じ込めた。
ああ、真似してるんだ。笑い声と一緒に漏れだした息は優しい幽霊になって夜道をふわふわ漂った。

「ね、ジェイス、手繋ご!」

冷たい? と尋ねるとジェイソンはぶんぶんとかぶりを振った。その子供みたいなしぐさは私の胸の奥をぎゅうっと締め付けて、あったかい『好き』でいっぱいにする。

「帰ろ帰ろ。……えへへ、なんかぽかぽかしてきたかも」

——確かに、恋をしても世界は変わらなかった。
だけどもしかしたら、私自身はちょっとだけ変わったのかもしれないね。

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    13日の金曜日ジェイソン
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