近距離恋愛

ぽかぽか陽気の午後。
学校の裏手で一番心地好い場所に腰掛けて、他愛もないことを喋りながらサンドイッチを食べて、そして別々の教室へと戻る……そんないつもの流れをせき止めたのは、キャリーがぽつりと放った一言だった。

「遠いわ」
「ん? なにが?」

膝の上のハンカチを畳みながら、私はそう聞き返す。
キャリーも同じように両手を膝に乗せていたが、細い指は落ち着きなく服の袖を引っ張っていた。まるで恥ずかしがりやのちっちゃな女の子みたいだ。

「私と、モニカの……距離」
「距離」
「うん」
「ふむ、それは」

キャリーの小さな手を両掌で包み込む。

「心の距離のことかね?」

どこかのお芝居にでもでてきそうな紳士を演じてみたら、キャリーが小さく吹き出したので嬉しかった。
彼女の笑顔は世界中の誰よりも、何よりも可愛い。

「もう、モニカったら。違うわ。そうじゃなくて……別の教室へ帰らないといけないから……」
「えー、隣のクラスじゃん!」
「でも私にとっては遠いの」

あ、またそうやって寂しい顔をする。
うつむく彼女の透き通った瞳は、陽光に照らされて輝くモザイク画のような石畳を見つめていた。
私たちの頭上にある青々とした木が繊細な影絵を披露する場として選んだその石畳の隙間からは、名も知らぬ黄色い花が顔を出している。雑草は強い。

「じゃあ」と、キャリーの方へ身を乗り出して、可愛い顔を隠そうとする金色の髪を耳に掛けた。
風が吹き、影絵も花も揺れて、唇が触れ合う。

「これは?」
「……近い」

寂しそうな彼女なんて、もうどこにもいなかった。

2011-11-05T12:00:00+00:00

    拍手ありがとうございます!とても嬉しいです!

    小説のリクエストは100%お応えできるとは限りませんが、思いついた順に書かせていただいています。

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