満たすことから始めよう

「はい!」

さあ来いと広げた腕をちらりと見やって、貞子ちゃんは困ったように「えっと……」と呟いた。
真っ白いワンピースとは対照的な深い黒色をたたえた髪は長く垂れ下がり、彼女の美しい顔をなかば覆い隠している。
その髪の間で、大きな瞳が問い掛けていた。“私はどうすればいいの?”

「ぎゅってさせて」

ほら、と腕を突き出す。
そうしたら貞子ちゃんは恥ずかしそうに頬を赤らめて、でも素直に体を預けてくれる。
こんな時、私は彼女が愛しくて愛しくて泣きそうになるのと同時に、もっとこの可愛いひとが欲しいと飢えにも似た思いを抱くのだ。
柔らかな感情と粗野な情欲のあいだで、あたかも体が引き裂かれるような痛みと疼きに苛まれる。
大切な大切な貞子。私たち、いつになったらもっとわかりあえる?
どうやったら今抱き合っている以上の距離を手に入れられる?

「ちゅーしていい?」
「え」
「嘘」

わかってる。こうしていつも逃げてしまうから、だから望んだものが逃げていくのだ。
臆病な自分が悲しくて憎らしくて、散り散りになりそうな体を引き離そうとした瞬間、ふっと唇の距離が縮まった。

「……嘘なの?」

完璧な微笑みで、彼女は私の心臓に触れた。

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    リング貞子
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