Happy Birthday!

今朝は妙に早く目が覚めた。けだるい頭で携帯の画面を見ると、時計の表示は“10/19(WED) 04:58”となっていた。
どうりで薄暗いはずだ。それより19日……19日かあ。
頭から布団をかぶって夢の世界への逃亡を謀るものの、逆に目が冴えてしまったので仕方なく身支度を整えて一階に降りる。

「うわー……寒っ」
今日の最高気温は24℃だとか言っていたような気がするが、朝はやはり冷えが厳しく、私はカーディガンの前を掻き合わせた。
ひんやりと冷たいドアノブに手をかけ、薄暗いリビングに足を踏み入れたとき、奥からかすかな物音が聞こえた。キッチンの方だ。
「マイケルー? 早起きだね」
予想通り、そこでは青い作業着の男が包丁を物色しているところだった。私を見ても驚いたり慌てるそぶりもなく、おはようと言うように一つ頷くと再び包丁のチェックに戻る。
「あ、それ高かったから駄目。こっちのにして」
マイケルの様子は悲しいまでにいつもと変わりなかった。
これは絶対に忘れてるな、と溜め息をつく私の背中に何かが触れる。振り返ると、無表情なマスクがこちらを見下ろしていた。
ぽんぽん、ともう一度背を叩かれて、彼なりに心配してくれているのだとわかった。こういう所だけは敏感なんだけどなあ……。
「なんでもないよー。ココア作るから牛乳取ってくれる?」
食器棚からマグカップを二つ取り出し、それをコンロの横に並べて置く。
「ところで、今日何があるか覚えてる?」
白いマスクを被った頭がちいさく傾いだ。それからはっとしたようにシンクの上の包丁を掴む。
「いや、ハロウィンじゃないから。まだ半月くらいあるから大丈夫」
首をひねるマイケル。それだけ考えても思い出せないのか。
片手鍋を温めつつ「……今日はね、マイケルの誕生日だよ」と教えてやると、殺人鬼はぱちぱちと目を瞬かせた。少し驚いているように見えるのは気のせいだろうか?
カップの中でココア粉と牛乳が混ざり合い、チョコレートの甘ったるい匂いを浮かべる。猫舌さんのカップには冷たい牛乳をちょっとだけ足して差し出した。
「はい、どうぞ」
私はすぐにマグカップに口をつける。マイケルはきっといつものように、私が見ていない間にそれを飲むのだ。
「プレゼントも考えてたんだけどね。マイケルの欲しいものって思いつかなくて……ごめんね、早めに聞いておけばよかった」
だから、と私は言葉を続ける。
「今日はずっと一緒に過ごして、ケーキを食べて、欲しいものを見つけようね。誕生日おめでとう!」
窓の外では空が次第に明るさを帯び、世界に心地好い温もりが灯り始めていた。

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