ずっとずっとこれからの話をしよう

今日は朝から街中が騒がしかった。
お天気は快晴で寒すぎず、心地よい空気を取り込もうと窓を開ければ、笑い声はさらに大きくなる。
年に一度のお祭り——ハロウィン当日を迎えて、住民たちは皆少なからず浮足立っていた。
もちろん、私だって例外ではない。お祭りというのはそれだけで心が騒ぐものだし、更に今年のハロウィンは私にとって特別な意味を持っていた。

「ジェイソーン、おはよーご飯だよー」

開けっぱなしの戸口から声をかけると、ベッドの上の塊がごそごそと動く。
巨大なサナギのようなそれは返事をしなかったが、それはいつものことなので、しつこく声をかけるのはやめておいた。
日当りの悪い北向きの部屋は屋外よりも肌寒く感じる。もう一枚毛布を出してやった方がいいだろうか、などと考えつつ隣の部屋にも同じように声をかけてから、私はリビングに戻った。

そう、今年は“彼ら”と過ごす初めてのハロウィン、そしてこの街で迎える初めてのハロウィンなのだ。
友人からのパーティーの誘いは全て断ったし、今晩は彼らを街に連れ出してみようと考えている。今日ならば少々個性的な出で立ちも、ただの仮装だと思われるに違いない。
飲み物の用意をしていると、大きな影がリビングの出入り口をふさいだ。
傷だらけのホッケーマスクを着けたジェイソン・ボーヒーズはまだいくらか眠たそうに目を……というかマスクをこすっている。
そんな彼にいつも通りおはようのハグをしてやっているところに、二人目が登場した。
大柄なジェイソンよりも更に数センチ背が高いババ・ソーヤーは、こちらもやはりマスクを被っていて、同じようにおはようの挨拶をせがんだ。
三人目の殺人鬼——ハロウィンを活動日にしているマイケル・マイヤーズはすでに家を出たらしく、どこにも姿が見当たらなかった。
いくらなんでも朝から殺人に勤しむとは思えないが、当日ともなればいろいろ準備があるんだろう。

「ところで今日は何の日か知ってる?」

朝食のパンケーキを半分ほど片付けた頃、私は向かいの席に座るふたりに訊いてみた。
大柄な殺人鬼たちは顔を見合わせて、それから同じ方向に、同じタイミングで首を傾げた。
そのあまりの可愛らしさに思わず吹き出しそうになるのを咳払いでごまかしつつ、窓の外に並ぶカボチャのランタンを指差す。

「ハロウィンだよ」

すると、マスクのふたりはやっぱり同じようにこくこくと頷いた。


ハロウィンと言えども、時間はいつもと変わらず飛ぶように過ぎ去る。

「うわ、もう五時半……」

片付けや掃除、洗濯、料理に追われているうち、あっという間に夕方になってしまった。
昼食を食べたあと三人でついうたた寝をしてしまったのだが、どうもこれがまずかったような気がする。
秋の終わりともなれば日没は早い。暗い街並にはオレンジ色の灯りが点々と浮かび上がり、その合間を縫うように小さなお化けや魔女がぴょんぴょん跳ね回っている。
それから、やたら気合いの入った衣装に身を包んだティーンエイジャーや大人の姿も。近頃ではハロウィンは子供達だけのお祭りではないのだ。
窓に張り付いているジェイソンとババの背中を見つめながら、だから彼らだってはしゃいでもいいじゃないか、と一人頷いた。

そして待ちに待った夜。
この街の人々はよほどハロウィンが好きらしい、というのが私の感想だった。
なぜなら寒空の下には死者の恰好をした子供や大人が所狭しと溢れかえっていたのだから!

「前に住んでたところではこんなに盛大じゃなかったよ」

そう呟く私の隣で、ふたりの殺人鬼も少なからず驚いているようだった。
それにしても、一口に仮装と言っても実に多種多様だと改めて感心させられる。
魔女やピエロや吸血鬼などの定番ものから元ネタがよくわからないものまでいろいろあるが、まさかマイケル・マイヤーズの衣装とマスクを着けている人までいるとは思わなかった。それも複数。
あらあらなんて不謹慎な。
これで殺人事件でも起きたら(いや、確実に起きる)警察はさぞ苦労するだろうな。
さて、マスクふたりの反応だが……ババは初めのうちこそ物珍しそうにきょろきょろしながら歩いていたものの、幽霊や怪物の群れに圧倒されたのか、今は怯えたように私の手を握っている。
ジェイソンは無感動に群衆を眺めているように見えるが、実のところ風紀に反するカップルがいないかどうかチェックしてるんじゃないかな。
そしてどちらとも、時折通りかかる“マイケル”にいちいちびっくりしているのが面白い。
……実はこっそり本物混じってるんじゃないかと思うんだけどどうだろう。

さあ、そろそろうちに帰ってご飯を食べて、ちび共の襲撃に備えなければ。
それから三人でマイケルが帰ってくるのを夜通し待って……途中で寝てしまうかもしれないけど、明日になったらみんなで食卓を囲もう。
いくらか落ち着きを取り戻した街を見ながらまたいつも通りの幸せな生活を重ねて、そして来年のハロウィンもこうして過ごせたらいいなって、心からそう思うよ。

「Happy Halloween!」

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    悪魔のいけにえ13日の金曜日ジェイソンババ
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