怪物の気配は急速に迫りつつあった。
音もなく、声もなく、まっすぐこちらに向かってくるそれを迎え撃とうと、ハンゾーは黒いシャツを脱ぎ捨てるときつく刀を握り直した。
生温い夜風に混じる敵の殺意と高揚がナイフのように素肌を斬りつけ、頬を打ち据える。
吹き出す汗は気温のせいだけではなさそうだった。
自分はおそらくここで果てるだろう。
地球に残してきた人たちは数多くいるのに、その誰一人として顔を思い出せず、ただ“彼女”は無事に逃げ果せるだろうか、そんな思いが頭をかすめた。
これは誰のための闘いでもない。ただ自分の誇りを賭した無謀な抵抗にすぎない。
だがそれでも彼はこう考えずにはいられないのだ——イザベル、彼女がどうか生き延びて、最後は笑えるようにと。