同居人が取り返しのつかないうっかりでプラズマキャノンをぶっ放し、庭の物置を木っ端みじんにしてくれたのが三日前。
その時に私が放った「もうお前なんてあれだ、今日から誤射デターだよ!」の一言はなぜかあれよあれよという間に他のプレデターに伝わって、彼の愛称はめでたく誤射デターとなっていた。
全然めでたくないと恨めしげに睨まれても、だってそもそも誤射する方が悪いんだし。
「そうは思わんかね?」
「……だから、あれ、は」
出会った頃と比べるとずいぶん流暢に操れるようになった地球の言語で誤射デターことグランは不機嫌に答えた。
彼が言い訳を捜し当てるよりも先に私が言葉を続ける。
「ウルフさんがグランは前にもやっぱり誤射で宇宙船墜落させかけたことがあるって言ってた」
これは痛いところを突いたらしく、彼は途端に黙り込む。銀色のマスクに隠された表情こそ伺えないものの、相当ばつの悪い思いをしているのは間違いないだろう。
「ねー?」
低く喉を鳴らす顔を覗き込むとふいっと視線を逸らされてしまった。あーあ、拗ねさせちゃった。
確かにちょーっとばかし意地が悪かったかもしれないけど、だってグランをいじめるのって楽しいんだもん。でもいい加減十分に反省しただろうし、この辺にしといてやろう。
ああ、そうだケルティックのところに片付け手伝ってくれたお礼に行かなくちゃ。こういうときは菓子折りを持参するべきだろうが彼は何が好きなのかな、やっぱり無難に牛肉にしておくべき?
そんなことを考えながら出かける準備をしていると、ふいに背後から頼りない声が聞こえた。
「なあ」
「はいよ」
「……追い、出すか?」
「は!?」
思いがけない問いに驚き振り返るとグランが落ち着きをなくした様子でちらちらとこちらを窺っていた。がっくりと肩を落としているせいで、でかいはずの体が妙に弱々しく見える。
「ない?」
「『ない』?……ああ、べつに追い出しはしないってば」
そりゃ確かに相当腹は立ったけど、そこまでは。
予想以上にダメージを受けていたらしいグランの凹みっぷりがおかしくて笑うと彼はようやく安堵したようだった。
「タバサ」
ごつい掌に肩を掴まれて、マスクの顔がぐっと近づく。調子に乗るんじゃないの、そう叱りたかったけど喉は震えず、ひどくどきどきしている自分が恥ずかしかった。
と、その時、開けっ放しの窓の向こうに別のドレッド頭がひょっこり現れて、私たちは同時に体を離した。
「よう、誤射デター」
そう言ってはっはっはと人間の笑い声を真似てみせるのはハンターで、多分、狩りの誘いかなにかに来たのだろう。
「い、いいところで!」
グランの悲痛な叫びに今回ばかりは私も同調せざるを得ず、人知れず頭を抱える。まったくこいつは……。
「あー……はいはい、二人とも行ってらっしゃい。その辺の建物とか吹き飛ばさないでよね」
再び深く肩を落とすグランの背中を見送り、帰ってきたらもう少しだけ優しくしてやろうかなと、そんなことを考えてみたりした平和な朝の話。