腹部の圧迫感で目が覚めると、薄暗がりのなかで焼け爛れた顔の女がにやつきながらこちらを覗き込んでいた。
「ハァイ、お姫様!」
「……フレディ」
ため息をつく私に、フレディことフレデリカ・クルーガーは「なんだ、驚かないの」と薄い唇をとがらせる。
「寝起き早々そんな面白いリアクションとれません」
もっとも、現実の私はまだ眠っているわけだが。
「他の子たちなら大絶叫するシーンなのに」
「私はもう慣れたよ……いいからどいてよ。ほらほら、フレデリカさーん、ど、い、て」
私に跨がったままの細い腰に手をかけると、右手に着けたナイフを優雅に翻していたフレディがにやりと笑った。
完璧な弧を描く赤い唇、僅かに細めた目。その表情はまるで恋人を誘惑するような……。
「ねえ?」
妙に勿体ぶったしぐさのフレデリカが焦げ茶色の帽子に指を触れる。帽子を脱いだ拍子に短く切り揃えた金髪がさらりと乱れ、甘い匂いが鼻孔をくすぐった。
彼女は猫のようにしなやかな身体をくにゃりと折り曲げて、唇が触れそうな位置でゆっくり、ゆっくり言葉を紡ぐ。
「ねぇニーナ、もっと楽しいことしようか?」
「……私にとって一番楽しいことはね。二度寝かな」
フレデリカの背中に腕を回す。あたたかい体を抱きしめたままごろりと寝返りを打った。
フレディは咄嗟のことに驚きつつも、私を傷付けないようにだろうか、手袋を着けた右手を中途半端に浮かせているのがおかしい。その手は結局、私の背中に落ち着いた。
「変なことしたら現実に引っ張り出すからね」
「はーん。悪い子のニーナは向こうでヤリたいの? ん?」
こんなときでも口が減らない子だ。
「もー、なんで意地でもそっちに持っていこうとすんのさ」
沈黙。腕の中でフレディの華奢な体がごそごそ動く。
「……だって、そりゃ」
あんたは一番のお気に入りだからね、と可愛い夢魔がつぶやいた。