TRAP

予報じゃ今日は曇りだって言ってたけど、少なくとも今の空は三月とは思えない快晴で、窓辺にいると汗ばむくらいだった。
ときどき吹く風のおかげで暑すぎはしない。あまりに居心地がいいので椅子を運んできてメールを打っていたら、庭を横切るウォーリアーさんが見えた。
彼がうちに帰ってくるのは一週間ぶりだ。どこかで狩りでもしてきたらしいが、幸い、家を汚すような“戦利品”は手にしていない。
それにしてもこんないい日に狩りなんて。いい日だからなのかな? 冬のあいだはほとんど出歩けなかったみたいだしね。
手元に視線を戻したとき、庭の方からゴシャッ、だかズシャッ、だか、変な音がした。短い悲鳴も聞こえた気がする。

「あれ?」

顔を上げたらウォーリアーさんが消えていた。窓から顔を出して見回しても、やっぱりどこにもいない。

「ウォーリアーさん? ウォーリアーさーん」

……いた。彼はなぜか地面に穿たれた大穴から這い上がってくるところだった。ばっちりぶつかってしまった視線を通して、彼の屈辱と怒りが痛いほど伝わってくる。
土まみれの全身もそのままに、ドスドスとこちらにやってきたウォーリアーさんは窓を乗り越えて室内に降り立つと、こちらにぐっと顔を近づけた。

「わかってると思うが」
「うんうん、黙ってますとも。……エリザー! ウォーリアーさんがねー!」
「おい待てやめろ、待て!」

エリザがめんどくさそうに部屋に入ってきてくれて、髪を引っつかむ手からやっと解放された。
すかさず私の口をふさごうとするウォーリアーさんの腕の中からすり抜けて、私はエリザの背後に身を隠した。

「あのね、ウォーリアーさんが落とし穴に落ちた」
「《落とし穴に落ちた》……」

フッ、と鼻で笑う気配がしたのは気のせいだろうか(そもそもプレデターに鼻ってあったっけ?)。
可哀相なウォーリアーさんをひたすら無言で見つめることでからかったあと、エリザはふいにこちらを向いた。問い掛けるような、咎めるような、叱り付けるような視線が私を射る。

「わ、私じゃないって! ほんとに! ウォーリアーさん引っかけるためだけにわざわざ自分ちの庭に穴なんか掘らないよ」

そっか、そういえば誰があんなの掘ったんだ?……なんて、答えはわかりきってるんだけど。犯人は——

「なに? 落ちたの? 落ちたの? マジで?」

間違いなくこいつだ。
げらげら笑いながら登場したハンターは、次の瞬間ウォーリアーさんから渾身の手刀を喰らって一瞬で昏倒させられて、首根っこを掴んでぶら下げられていた。

「……埋めてくる」
「うちの庭を永遠に不毛の大地に変えてしまうつもりですか」


再教育と称してハンターがどこかへ連れ去られたあと、私はまた窓辺でぼんやり過ごしていた。
ハンターのことが気にならない訳ではないけど、まあ奴なら何があっても死ぬことだけはないだろうし。せいぜい叱られるがいいさ。

「ニーナー!」

聞き覚えのある、はつらつとした声が外ではじけた。
庭の向こう側からチョッパーが駆け寄ってくる。あまり乗り気でなさそうなスカーとケルティックがその数歩うしろを遅れ気味についてきてて、そういえば遊びに来るって言ってたっけって思い出す。

「あ、そこ! 気をつけて!」

チョッパーの足が口を開けたままの落とし穴に近づきつつあることに気がついて、あわてて窓から身を乗り出した。
穴のふちギリギリで急ブレーキがかかる。不思議そうに首をかしげるしぐさは、なんでこんなところにこんなものが、そう問いたげだ。
それでも根が素直な彼はすぐに元気よく頷いて、「わかった!」なんてこっちに手を振りつつ穴を迂回して走ってくる。
……だったのに、次の瞬間チョッパーが視界から消えた。ひゃあああ、と情けない悲鳴がやけに長くとどろいたがあの穴の深さやいかに。

「まさかの二つ目……ごめんチョッパー……」

と思ったらスカーとケルティックも消えた。

「……ハンターあんたいくつ穴掘ったのこのバカー!」

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