大黒さんと私

家を出たのは、親の再婚相手と折り合いが悪かったから。
真夜中の公園をうろうろしてたのは、あてにしてた友達が急に「やっぱ今日彼氏が来るから泊められない」とか言い出したから。
彼を見ても驚かなかったのは……なんでだろう。よくわからない。でもほら、私って昔から宇宙人の存在には肯定的だったし。

「あー、やばい」

盛大なため息と混ぜて吐き出した一声は、二人きりの深夜の公園では思いのほか大きく響いた。
なにがやばいって財布の中身が。今まで寝床の確保に女友達の家やネットカフェなんかを転々としてたんだけど、家出から三週間ともなればさすがに手持ちが限界。

「バイト探さなきゃ」

友達は“売り”やればって気楽に言うけど……

「それは最終の最終手段だよねー」

またため息をついた時、今まで静かだった大黒が威嚇の唸り声を上げた。
独り言がうざいらしい。いや、私としては会話してるつもりだったんだけどね。
大黒と言うのは件の宇宙人で、行きずりの相棒みたいな関係だ。名前の由来? 体が大きくて黒いから。

ところで大黒はだいたい常に機嫌が悪い。だから最近では機嫌が悪いなりに、それがどの程度の場所に位置するのか見分けられるようになってきた。
メーターが振り切れる寸前なのか、近寄っても許されるレベルなのか、それとも冷たい雨にイライラしてる程度の話なのか。
今日はパーセンテージで表すなら25くらいで、原因は明らかに私にあるようだった。

「ねーねー、そんな嫌わなくてもいいじゃない」

ふざけて繋いだ手をさらにギュッと握ったら、彼のイライラ度が上昇するのを感じた。それでも手を振りほどこうとはしないのが不思議だ。

「よくわかんない人だなあ」

あ、人じゃないのか。そう思って不気味なマスクの顔を見上げた時、まるで心を読んだかのように手が離れた。
そして呼び止める間もあらばこそ、不機嫌な宇宙人は植え込みをずかずかと踏み分けて突き進み、闇の中へと消えてしまった。
いくらもしないうちに男の悲鳴が轟いたのは、きっと無関係ではないだろう。

数分もしないうちに戻ってきた大黒は、なんと黒いバッグを携えていた。会社員が使っているような、大きくて四角いバッグ。

「……もしかして盗ってきた?」

大黒が誇らしげに胸を張る。

「うん、そっかー盗ってきちゃったかー。……じゃあとりあえずダッシュ! 逃げる!」

なんかサイレンの音とか聞こえるし!
手を繋いだ私たちは、町の喧騒を振り払うように走って、走って、走った。そのうち大黒が私を担ぎ上げてくれたので、私はたくましい肩の上でずっと笑っていた。
なんだか訳のわからない人生になっちゃったけど、まあこういうのも悪くないよねって考えながら。

「もっと早くー! GOGOー!」

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