飼育員とごはんの準備

ジュラシックワールドの東端に位置するヴェロキラプトル研究所、そこに併設されたスタッフルームで、3人の男女が顔を付き合わせて眉をしかめていた。
彼らの前には真空パックされたネズミの死骸が一山。

「アダルトマウスの冷凍を4袋って頼んだはずなのに……」

最初に口火を切ったのは、調教師のエリーだった。
ノースカロライナで生まれ育ち、同州の名を冠した巨大動物園に12年間勤めた末、数ヶ月前にこのジュラシックワールドに引き抜かれてやってきた経緯を持つ彼女は、目の前に積まれた明らかに大きすぎる冷凍餌にすっかり困惑して、着ているワークジャケットの袖を意味もなく引っ張った。

「誰ですか? アダルトラットを発注しちゃったうっかりさんは」
「悪い」
「お前かよ」
「よりによって……」

フランス訛りの残る口調で居心地悪そうに肩をすくめるバリーを、エリーとオーウェンは同時に視線で諌めた。
だが先週の慌ただしさを思えば、この程度のミスで済んだのは僥倖と呼べるだろう。そもそも、これ以上追求したところで時間が無駄になるだけだ。

「やっぱりこれは使えそうにないよな?」
「うーん、ラプトルの口なら詰まったりすることはないと思うけど、一匹でお腹いっぱいになるから訓練には使いにくい」
「仕方ないな、他の部門に買い取ってもらうか」

あくまでも自分で責任を取ろうというつもりなのか、バリーがさっそくデスクの端に置かれた備え付けの電話に手を伸ばす。
そこへ、白い毛並みのネズミを真空パック越しにためつすがめつしていたエリーが片手を上げてストップをかけた。

「待って。今から発注し直すと時間がかかるし……ここってフードプロセッサーとかキッチンバサミなんてあった?」
「俺はその先は聞きたくないからな」

受話器を持ち上げた姿勢のまま、バリーが顔をひきつらせる。
南部特有ののんびりと間延びしたアクセントとはまるで釣り合わない発言の内容を頭から追い出すかのように首を振る。
オーウェンも険しい表情を作ったが、相棒とは違って内心では面白がっていることを隠しきれずにいる。
デスクのペン立てや簡易キッチンの引き出しをあさっていたエリーが人数分のハサミを手に戻ってくると、バリーとオーウェンそれぞれに執刀道具を手渡した。

「だって切った方が早いから……3分割にしてほしいの。ここと、ここ、見える? この骨の間に、こういう角度で刃先を入れると簡単に切断できるから」
「ずいぶん慣れた風に言うんだな」

オーウェンからニヤニヤ笑いでからかわれても、エリーはかえって誇らしげに胸を張る。

「猛禽のお世話って大変なの。はい、芯まで凍ってるうちに早く早く。ところでバリー、発注ミスのお詫びに今夜は焼肉おごってね」
「俺に吐かせたくなかったらその話は今すぐやめた方がいいぞ」
「俺はホルモンが食いたい」
「よきー。え、じゃあオーウェンも一緒に行こうよ」
「オーウェンお前いい加減にしろ! そもそもエリーがいい加減にしてくれ」

唸るバリーの手元で、ハサミがばちんと音を立てた。

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