ペンギン
映像モニターの中で、氷上をよちよち歩くペンギンたち。
その姿を、3人は静かに見つめていた。
「エンペラーペンギンはいたけど」
リプリーがふと呟く。
「コウテイペンギンは、どこにいた?」
ステラがやわらかく微笑んだ。
「エンペラーペンギンが、コウテイペンギンですよ」
コールが補足するように言う。
「“エンペラー”と“皇帝”は同じ意味だからね」
リプリーがゆっくりと瞬きをした。
「……コウテイ、ヒテイのコウテイ?」
一瞬の沈黙。
「肯定ペンギンて何なんですか?」ステラが不安そうに首をかしげた。「ずっと頷いてるんですか……?」
「じゃあ否定ペンギンもいて、ずっと首振ってるの!?」
コールの声が少し上ずる。
ペンギンたちはただ、黙々と吹雪の中を進んでいた。
頷きもせず、首も振らず――ただ、まっすぐに。
クイズ1
ステラが、やや険しい顔で手元の紙を握りしめていた。
「リプリーさん、コールさん。ちょっと助けてください。クイズの答えがわからなくて……」
真剣な顔のまま、ちらりと2人を見やる。
「もう1時間も考えてるんですよ。なのに、解けないんです……!」
「どんな問題なの?」
リプリーが気だるげに聞いた。
「これです。開◯、追◯、◯送、◯火……◯に入る共通の漢字は?」
ステラの語尾が消えるのとほぼ同時に、コールが口を開いた。
「放」
沈黙。
ステラが紙を見下ろし、確認してから、呆けたように言った。
「一瞬で終わった……」
「ステラの1時間はなんだったの」
リプリーの言葉には、同情の色は薄い。
「せめて悩む振りくらいしてくださいよ」
ステラが小さく抗議する。
「そんなこと言われても」
コールはどこか申し訳なさそうに笑った。
クイズ2
「クイズ出すわ」
ラウンジの静寂を破って、ぽつんとコールが言った。
唐突すぎる一言に、誰もすぐには返さない。
「3リットル入る容器と、5リットル入る容器があるとして、どっちにも水が満タンに入ってる。さて――このふたつをどう使えば“正確に”4リットルを量れると思う?」
指先で空中に「4」の数字をくるりと描きながら、彼女はいたずらっぽく二人を見渡した。
壁にもたれて腕を組んでいたリプリーは、ほんのわずかに片眉を上げただけ。そのまま宙を見上げて、ため息のように言う。
「またそういう暇つぶし」
完全に聞き慣れたトーンだ。日常の雑音みたいなもの、とでも言いたげな。
一方のステラは、といえば。椅子にきちんと座り直し、目をきらきらと輝かせている。
理屈っぽくてちょっと面倒くさいタイプの問いに、むしろ燃えるのが彼女という人間だ。
「はい。まず、3リットルの容器の水を――上にぶん投げます!」
「……ぶん、何?」
コールの笑顔が一瞬で曇る。
「その間に、5リットルの容器から3リットル分の水を3リットルの容器に移して……」
「待ってメイヤー、おかしい」
ステラは聞いちゃいない。
「で、5リットルの容器に残った2リットルは捨てて、降ってきた3リットルの水を5リットルの容器でキャッチします」
「発想力はある」
静かに聞いていたリプリーが、ステラの方を見て頷く。
褒めているのか、それとも呆れによるものなのか、その表情から判別は難しい。
「あなたはメイヤーを甘やかしすぎ」
コールの声には、すでに若干の疲れが滲んでいた。
そんな様子をよそに、ステラはさらに勢いよく、よどみなく説明を続ける。
「今度はその5リットルの水を、上にぶん投げます!」
「……また?」
「その隙に3リットル容器に残ってる1リットルを、空いた5リットル容器に移してから、上から落ちてきた5リットルのうち3リットルを3リットルの容器でキャッチして、はい、これを5リットル容器に移せばちょうど4リットルですね」
「ですね、じゃないのよ」
コールがため息をつく隣で、リプリーが一言だけ、静かに。
「なるほど」
「納得しないで。メイヤーもわかっててわざとやってるでしょ……」
「合理性はともかく、芸術点は高いと思うけど」
「そもそも合理性を問うクイズなの!」
「でもコールさん、重力のない環境でなら可能かもしれませんよ。十分合理的です」
「やめて、もうこれ以上話をややこしくしないで」
コールの声が、じんわりと色濃く疲労を帯びていく。
なのに――ふたりはまるで、何事もなかったかのように、まだその先を話し合っていた。
今日もまた、彼女の平穏は遠い。
