小ネタ-サッカー/野良モーフ/弱モーフ

サッカー

モニターに映っているのは、どこかの惑星で行われているサッカーの試合だった。
 画面の向こうでは、ユニフォーム姿の選手たちが土煙を上げて走り回っている。
 歓声、スロー再生、ゴール前の攻防――それなりに白熱しているようには見える。
 だが、それを眺めている三人のうち、明らかに退屈している者が二名。
「……で、どういうルールなの?」
 リプリーが、頬杖をついたままぼそっと尋ねる。
 目は画面に向いているが、興味はおそらく地表すれすれ。この場にいる理由は、単に“暇だから”でしかない。
「ボールをネットに入れたら勝ちですよ」
 即答したのはステラだった。
 あまりに簡潔なその説明に、コールが斜め後ろからぼそっと漏らす。
「相変わらず、自分の得意分野以外は説明が雑ね」
「というかですね」
 ステラは真面目な顔で、画面を指差す。
「あんなに大きいネットに、なんでボール入れられないんですかね?」
 リプリーも納得したようにうなずく。
「11人もいるのにね」
「相手チームも11人いるからよ……」
 コールはそっと目を伏せながら軽く天を仰いだ。もはやツッコミというより、静かな諦めに近い。
 だがステラは、首をかしげたまま、まだなにやら考え込んでいる。
「でも、足しか使えないって非効率ですよね。手の方が制御しやすいのに……」
「それを言い出すと話が終わるでしょ」
「そもそも、なんで“ボール”なんですか? 空気抵抗を考えたらもっと流線型にして、内部にジャイロ入れて制御すれば――」
「メイヤー、サッカーの概念に喧嘩売るのはやめて」
 コールはいよいよ頭を抱えたくなった。もはやこの会話自体に興味を失っているリプリーからの助け舟も、期待できそうにない。
「でもコールさん、スパイク付き楕円体で重心ずらせば、跳ね返りの挙動も読めると思うんです」
「それはもう別の競技だから……」
 静かに崩れていくサッカーの定義と、淡々とそれを進行させる理系の鬼。
 コールが抱えるじわじわとした疲労感は、今日もまた着実に積み上がっていくのだった。


野良モーフ

 春の陽射しが、やわらかく野原を照らしていた。
 小さな花がところどころに咲いていて、そよ風が草をさらさらと揺らしている。
 そんなのどかな風景の中で、ステラはしゃがみこんで、目の前の“それ”をじっと見つめていた。
 ――つやつやと黒く輝く外殻。
 ――滑らかな曲線を描く頭部。
 ――「シャーッ」と低く唸る口元。
 間違いなくゼノモーフ。だが、どう見ても首輪もタグもついていない野良だ。
「あなた、どこから来たんですか?」
 ステラがやわらかく問いかける。まるで近所の猫に声をかけるような口調で。
 ゼノモーフは低く唸り返し、細く鋭い音を響かせる。
 するとステラは目を細め、遠くを見るような表情になった。
「ああ、またずいぶん遠くから……」
 それを聞いて、コールが慌てて身を乗り出す。
「え、わかるの?」
「全くわかりません」
 ステラはきっぱりと答えた。
「えっ」
 困惑するコールをよそに、ステラはまるで当然のように、野良ゼノモーフの隣に腰を下ろし、地面に咲く草花の名前をぽつりぽつりと教え始めた。
 リプリーはそんな二人と一匹を冷ややかに見つめながら、腕を組んで呟く。
「コール、その子に真面目に取り合ってると頭がパンクするわよ」
「もうしてる気がする」
 野良ゼノモーフは静かに、ステラが指差した草の匂いを嗅いでいるように見えた。
「これはオオバコですね。食べませんけど」
 春が、ゆっくりと、確かにそこにあった。


弱モーフ

ステラがぽつりとつぶやいた。
「そういえば昔、うちのゼノモーフが金魚に負けて……」
 唐突すぎる回想に、リプリーがうっすら顔をしかめる。
「金魚に負けるゼノモーフって何」
 ソファで静かに本をめくっていたコールが思わず手を止める。眉をひそめながらも、読みかけのページから視線を剥がしてステラの方を見る。
 興味はある。あるけど、少しだけ予感もしている――“これは話が長いな”という。
 ステラはきちんと姿勢を正し、ゆっくり語り始めた。
「水槽を洗う間、金魚を洗面器に移しておいたんですよ。で、ゼノモーフがそれに興味を持ったらしくて。前肢を出して、つつこうとしたんです」
 リプリーは腕を組んだまま、軽く頭をもたげる。
「それくらいなら普通だと思うけど」
「ええ、そうなんですけど。でもそしたら逆に、金魚のほうが先につついたみたいで」
 一拍置いて、ステラは肩をすくめた。
「で、ゼノモーフは『キャアァァァアーッ!!』って叫びながら逃げていきましたね」
 静寂。
 リプリーが、真顔で静かに言った。
「情けないにもほどがある」
 コールはというと、肩を震わせながら手で口元を覆っていた。
「かわいそうだけど……ちょっと想像したら……」
「泣きましたよ、ほんと」
 ステラはしみじみと頷いた。

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