命名論
休憩室の片隅。
天井パネルに埋め込まれた冷たい人工光が、ソファの背もたれを淡く照らしている。静まり返った空間のなか、低く鳴る空調音だけが空間に律動を刻んでいた。
そのソファにデスティファノが深く腰を沈めていた。手にした携帯端末の画面を睨みつけ、肩をすくめるようにして深いため息をひとつ。
「ペットの名前をゲームのキャラ名にしたいんだけどさ、文字数制限に引っかかるんだよな」
その場にいた者たちの視線が、ごく一瞬だけ彼に向いた。だが誰ひとり言葉を返さず、ややあって、仕方なくというふうにステラが口を開いた。
「なんていうお名前なんですか?」
「ザッシュワンとザッシュツー」
端末から顔を上げずに、デスティファノが答える。
一瞬の沈黙が、まるで何かの警報のように部屋の空気を振るわせた。
ステラは思わず聞き返しそうになるのを堪え、無表情のままその響きを脳内で反芻する。次第に眉が寄っていく。
「……じゃあ、ザッシュだけ使えばどうです?」
「雑種1か……」
背後から小さな声が割って入る。
ソファの背後、コーヒーマシンの前でカップを取り出していたゲディマンだった。思わず口をついて出たらしい。
ステラはそちらを一瞥し、ふっと小さくうなずく。
「私が犬だったら家出してますね、確実に」
「違うって!」
デスティファノが身を乗り出す。
「ザッシュワンの“ワン”は“1”じゃなくて、わんこの“ワン”! 猫は“ノーラニャン”って名前で、セットなんだよ」
その熱弁に、ステラは思わずマグカップをテーブルに置き、口元にうっすらとした微笑を浮かべた。
「なんで無駄にかっこよくしようとするんですか」
コアラ論
「コアラのマーチの絵柄を見ないで食ってる奴を見たとき、ああいうつまんねー人間にはなりたくないって、常々思う」
休憩室のテーブルに肘をつきながら、デスティファノが真顔で言った。
対面の席で、ステラは無言で袋を手に取り、静かに開ける。
「わかります。2、3個の絵柄だけで即興のストーリーを作るのが常ですよね。三角帽子のコアラが溺れてて、それを恋人が岸から見捨てて逃げるとか」
「……どこの戦場だよ」
デスティファノの声にわずかな間が開く。
ステラは気にせず、もう一つ取り出したコアラを眺めている。
「で、最後に生き残ったのが、タキシードを着たコアラ。全員を裏切った黒幕です」
部屋の隅で標本の整理をしていたゲディマンが、そろそろ限界という顔で振り返った。
「……そこまでいくとおかしいだろう」
