休憩室。誰も手をつけていないマグカップから、湯気だけがゆっくりと立ちのぼっていた。
「どう見ても敵っぽい動きをする味方って、信じられると思うか?」
デスティファノがぼんやりと呟いた。
視線はテーブルの端。特に誰にというわけでもなく投げられた言葉だったが、思いのほか反応は早かった。
「具体的には、どんな動きでしょうか」
ステラが、タブレットから顔を上げずに尋ねる。
「たとえば……廊下でこっち見ながら曲がり角にスッと消える、とか」
「それはほぼ確定で敵ですね」
「でも本人的には“こっち来い”の合図のつもりかもしれねえぞ」
ステラが顔を上げ、少し首を傾けた。
どこか納得のいかないような、冷静な違和感がにじんでいる。
「それなら、自分から呼びに来るべきです。“こっち来い”のくせに隠れるのは、矛盾してますね」
「まあ、たしかに」
一拍置いて、部屋の隅で手書きメモの整理をしていたゲディマンがぼそりと口を挟んだ。
「無言でドアの隙間から覗いてるような相手もアウトだろうな。動き以前の問題ではあるが」
「それは完全にホラーの域だろ」
「そうでしょうか」
ステラが横から割り込む。
「そういう行動を取るのが、その人の“通常”だった場合は、どう判断すべきか難しくなりません? たとえばリプリーさんとか」
デスティファノが、なぜか一瞬息を止める。
「あれは敵っぽいっていうか……単に行動が読めねえだけだろ」
「それはそれで厄介ではあるな。最も判断が難しいタイプだと言えるだろう」
ゲディマンがうなずきながらそう語る。
珍しく雑談に積極的な上司にちらりと目をやってから、ステラも小さくうなずいた。
「つまり、“動きが敵っぽい”かどうかじゃなくて、“敵っぽくても違和感のない人かどうか”が判断ポイント、ってことですかね」
「なるほど。信用できる相手なら、曖昧な動きひとつで疑ったりしないもんな」
結論らしき言葉を口にしたあと、デスティファノは少しだけ考え込んだ。
そして、なにかを噛みしめるように真剣な顔で、静かにつぶやく。
「ていうか……メイヤーも、敵か味方かわかんねーよな」
「私そんなに信用ないんですか!?」
